テラーノベル
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夕暮れ時の教室は、オレンジ色の光と長い影に包まれていた。
私は机に突っ伏したまま、重いため息を吐き出す。
「はぁ……。今日もバイト、ギリギリだなぁ」
親の作った借金のせいで、私の高校生活は毎日バイト三昧。それだけならまだしも、今日、とうとう住んでいた格安アパートを追い出されてしまった。今夜から寝る場所すらない。どうしよう、と頭を抱えていたその時だった。
「……おい。いつまで残っている。早く下校しろ」
頭上から降ってきたのは、氷のように冷たい声。
驚いて顔を上げると、そこには端正な顔立ちを不機嫌そうに歪めた、黒髪の男子生徒が立っていた。
「ひゃいっ!? ……あ、生徒会長の、一ノ瀬先輩……」
「名前を呼ぶな、馴れ馴れしい。校則違反のアルバイトをしている分際で、これ以上僕の仕事を増やすな」
一ノ瀬蓮
大財閥の御曹司で、学校一のイケメン。だけどその冷酷な態度から、女子たちからは『冷徹王子』と恐れられている先輩だ。
「すみません、すぐ帰ります!」
睨まれる恐怖に耐えかねて、私は急いでカバンを掴むと、逃げるように教室を飛び出した。背後で先輩が「チッ、危なっかしいやつだな」と小さく舌打ちしたのを、私は聞き逃さなかった。
◇◇
ざあざあと容赦なく降り注ぐ夜の雨。
私は濡れた公園のベンチで、膝を抱えて小さく丸まっていた。体は芯まで冷え切り、視界が涙で滲む。本当に、行く場所がない。
その時、目の前に大きな黒い影が差した。雨の音が少し遠くなる。
「……何をしている。こんなところで」
信じられない声がして顔を上げると、そこには高級な傘を差し、私を見下ろす一ノ瀬先輩の姿があった。
「一ノ瀬先輩!? なんでここに……」
「偶然通りかかっただけだ。……お前、家はどうした。その荷物はなんだ」
「それは……ちょっと事情があって、今日から泊まるところがなくて……」
私が俯きながら消え入りそうな声で言うと、先輩は深いため息を吐いた。
「はぁ……。本当に手がかかる」
次の瞬間、私の手首が強い力で引っ張られた。
「きゃっ! 先輩、どこに……!?」
「黙ってついてこい。お前をこのまま放っておいたら、僕の寝覚めが悪い」
拒否する隙も与えられないまま、私は先輩の用意した高級車へと押し込まれたのだった。
◇◇◇
連れてこられたのは、見上げるようなタワーマンションの一室だった。
広すぎるリビング、見たこともない高級な家具。呆然とする私に、先輩はバスタオルを投げつける。
「とりあえず、シャワーを浴びてこい。服は脱衣所に置いておく」
「あ、ありがとうございます……!」
温かいシャワーを浴び、借りた大きめのTシャツに着替えてリビングに戻る。ソファに座る先輩の背中に、私は恐る恐る声をかけた。
「あの、先輩……本当にありがとうございました。明日にはすぐ出ていくので……」
すると、先輩はゆっくりと立ち上がり、私の方を振り向いた。その瞳は、学校での冷たいものとは明らかに違っていて――。
「……出ていく?」
短い言葉とともに、私は背後のソファへと押し倒されていた。
「えっ……!? 先輩……?」
私の両手を頭の上で固定し、至近距離で見下ろしてくる先輩の目が、熱っぽく、ひどく色気を帯びている。いつもの冷徹な仮面は、どこにもなかった。
「誰が出ていっていいって言った? 誰もいない広い家に帰るの、もう飽きてたんだよね」
「(え……!? いつもの先輩はどこ……!?)」
耳元で、低く甘い声が鼓膜を揺らす。そのまま、抗えない強い力でぎゅっと抱きしめられた。
「今日からお前は、僕のペット兼、同居人。……拒否権は、ないから」
先輩の体温と香水の匂いに包まれて、私の心臓は、今にも壊れそうなほど大きな音を立てていた。
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