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「珍しい」
「珍しいって、一応この映画の助演なんだけど? 主演君」
「……そうだな。久しぶりに見た気がする、からそう思っただけかも知れない」
気を悪くさせたようだったら、謝る。と、軽く頭を下げられ、僕はため息をつく。
映画の撮影現場。久しぶりの空気感に、ああ、また戻ってきてしまったんだ、何て思いながら、隣に並ぶ今回の映画の主演、眞白レオは、その冷たいサファイアの瞳を僕に向けると物珍しそうに首を少し傾げた。僕の顔なんて良く見るだろう、何て、また苛立ちが積もっていく。
眞白レオ。
僕と、子役時代から肩を並べている、ライバルといわれている……と思い込んでいる同世代の俳優。同世代の俳優としてずっと残ってるのはレオ君だけだし、まあ長い付き合いといえば長い付き合い。でも、ライバルって言われるのは違うと思う。一方的にライバル視されているだけで、別に僕はライバルと思っちゃいない。だって、彼の演技は冷たいから。
イギリス人とのクォーターであり、僕とはまた違う存在感を放っている青年。光を帯びると青く輝く銀髪の髪に、深い海の底のようなサファイアの瞳。目をひくといえば、目をひくつくりで、何処にいてもすぐに分かる。まあ、僕の芸能人×芸能人の遺伝子から創り上げられた顔とはまた違うものだけど。
そんなレオ君は、僕が休業している間もずっとあの業界に残り続け、それなりに成果は出している。確かに、最近のレオ君の演技は一皮むけたというか、成長が感じられるものだった。それまでは、表情筋がかたまっているのかってくらいの無表情。まわりからは氷海の王子と呼ばれるクール系俳優だったくせに、最近では演技の幅が広がって、これまでのレオ君だったら、絶対に演じなかったであろう役まで演じて。変わったなあとは思う。何か、良い出会いがあったのか。
(……っま、僕には関係無いけど。相変わらずこう、突っかかってくるのはウザいよなあ)
無意識なんだろうが、現場で僕を見つけるとスススッとよってくる癖は変わらなかった。僕の演技を真似したい、なんて、前にいわれたときには鳥肌が立った。絶対に、レオ君にあわない演じ方だから。だって、僕とレオ君では演技に対する熱量や、技量、そして、演じ方が全然違うから。そんな、料理人が陸上選手に走り方教えて下さいなんていいに行くようなものだろうと、僕は思っている。
レオ君は、どっちかといえば自然とその役を纏って自分を残しつつ演技をするタイプだし、努力型の天才。
比べて僕は、僕自身を捨ててその役を憑依させて演じるタイプで、自分でいうのも何だけど天性の才能、一般的な天才。
だから、同じ俳優でも違うって思ってる。レオ君と僕は違う。それに、レオ君が必死に僕を追いかけて、この業界で生きていこうっていう意思が感じられるのに対し、僕は演技に対しての熱量は全くないから、憧れるだけ無駄だと思ってる。早いところ、それに気づいて欲しい。
「それで、僕を差し置いて主役になった気分はどう?」
「……どう、とは。いや、俺が選ばれるなんて、思ってもいなかったから、何というか」
「ふ~ん」
「てっきり、祈夜が選ばれるものだと思っていたから。そう、だな。主役……としての責任感というか。少し、緊張しているかも知れない」
と、バカ正直に応えるレオ君。
それが嘘じゃないってのも、嫌味じゃないってのも分かってるからこそ、この馬鹿馬鹿正直真面目君は苦手だなあ、と思う。
(ド真面目君だもんなあ……まあ、ここは――)
ポンと、肩を叩いて、持ち前の笑顔を向けてやる。
「まあ、そんな肩の力入れなくても大丈夫だって。僕も、リードするし? 主役だからとかじゃなくて、まずは、自分に出来ることからすればイイじゃん」
「祈夜……そう、だな。そう、してみるか」
レオ君は、僕の言葉を素直に受け止めて、少しだけ頬を緩ませた。本当に単純で助かる。
クールで表情筋が死んでいるとはいえ、感情が全くないわけじゃない。寧ろ、そこばかりに皆気を取られているから、レオ君の感情に気付かないんじゃないかとも思う。別に、僕はどうでもイイと思うけど、分かってしまうんだよね。人間観察が得意だから。
「そういえば、祈夜は、何でこの業界に戻ってきたんだ。休業中だっただろ」
「戻って来ちゃダメなんですかー」
「いや、そういう意味でいったわけじゃなくて……ただ、意外だと思ったから」
「ふーん」
戻る気なんて更々なかった。でも、両親が煩いから。
芸能界っていう特別な場所があるんだから、才能があるんだから、そこで生きれば良いって、そう両親にいわれている。両親に誉められたこの才能。でも、時々思うんだよね。
その才能って、アンタら両親から生れなかったら得られなかった、持ち得なかったものなんじゃ無いかって思って。
「まあ、両親に言われたから。さすがにすねかじったまま生きられないし? ちょっとは、仕事しなきゃなあって思っただけ」
「そう……か。仕事、お金のためか」
「悪い?」
「いや、祈夜らしい」
「何それ」
僕のこと、どんな風に見てるのさ。
そんな目で見てやれば、レオ君は戻ってきて嬉しいというように、僕に手を差し出した。多分、これからクランクアップまでよろしくの意味だろう。
(だから、ライバルじゃないっての)
僕は握り返して、レオ君とは違う、僕は食えない越えられない、って意味を込め、挑発的な笑みを浮べる。
「うん、楽しみにしてるよ。成長したレオ君の演技」
「ああ。久しぶりの共演。俺も全力で頑張るからな」
僕は、俳優の祈夜柚を演じる。
皆が見てる、祈夜柚って、俳優の祈夜柚でしょ?
(ほんと、クソみたいな世界)