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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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 春。薄紅色の桜が咲き乱れる中を、僕――下拂優はどこか憂鬱とした気分で登校していた。


 今日から高校三年生。大学受験を目前に、そろそろ全力投球しなければならないなと思いながら、けれどどこの大学に行けばよいものか、僕は今だに悩み続けていた。


 お世辞にも僕は勉強が得意だなんて言えない。どちらかと言えば勉強は嫌いだし苦手な方だ。できればしたくないもののトップ3には余裕でランクインするもの、それが勉強。だからと言って、これから先のこと、つまり自分の将来を考えれば、例えランクの低い大学であったとしても出ていないよりは幾分かマシなんじゃないか、という思いから、進路希望は毎年適当な大学名を書いて提出し続けていた。


 それがついに高校生最後の年を迎え、いよいよ卒業後のことを決めなければならない。


 文系、理系、経済系、工業系……色々考えはするのだけれど、果たして自分に向いているのはどういったものなのか、そしてまた大学卒業後にどんな職業に就きたいのか、なんてことを日々考えてはいるのだけれど、一向に答えなんて出てきたりはしなかった。もともと放任主義の両親は自分たちが教師という立場でありながら進学を強要するでもなく「焦らずともいいよ」と言ってくれるのだけれど、その優しさがかえってなんだか僕の心を焦らせる。クラスメイトや友人たちはすでにそれぞれの目標を決めて、その道に向かって舵を切っているようなのだけれど――


 希望に満ち溢れているはずの爽やかな朝なのに、僕は地面に視線を向けたままとぼとぼ歩きつつ、深い深いため息を漏らしていた。


 重い、あまりにも気が重い。


 自分の将来が全く想像できない。


 働いている自分の姿が全然見えない。


 僕は何をしたいのか、何ができるのか、果たして自分とは何者なのか、どうしてこの世に生れてきたのか、自分という存在がここにある理由とはいったい――なんてことを考えていると、


「なぁ~に、朝から辛気臭い顔してんですか、シモフツくん?」


 不意に正面から声がしてふと地面から顔を上げると、三年間ずっと同じクラスだった女子――楸真帆の姿がそこにはあった。


 長い黒髪は春風にそよぎ、桜並木をバックにキラキラと煌めいて見える。高校生にしてはやや低い背に幼い顔立ち。けれど目鼻は美しく整っていて、可愛らしいのと同時に何となく大人っぽさを感じさせる不思議な印象を受ける。虹色に反射して見えるその特徴的な薄灰色の瞳がじっと僕の顔を覗き込みながら、


「ほら、笑って笑って! 愛しい彼女が珍しく朝からお迎えに来てあげたんですから!」


 にこやかに、そして胸を張ってそう口にした彼女とは、この高校に入学してしばらくしたころからずっと付き合い続けている。こんな可愛らしい子と恋人同士ってだけで周囲からは羨ましがられることも多々あるのだけれど、彼女には他の人たちの知らない秘密|(あえて言っていないだけで、別に絶対に秘密にしなければならないわけでもないらしい)が実はあって、なかなかに大変な思いばかりしていた二年間だったなぁ、なんて今更のように改めて僕は思った。


 そんな真帆に、僕は出来るだけ笑顔を――嘲るような笑みを口元に浮かべてやりながら、


「今日はどうしたの? また何かやらかして、おばあさんにホウキを隠された?」


 すると真帆は軽く眉を寄せ、頬を膨らませるようにしてから、


「違いますよ! そんな、毎度毎度何かやらかすように私が見えますか? こんなに長く付き合ってるのに!」


「見えるも何も、いつものことじゃないか。こんなに長く付き合ってるから知ってるよ」


「そんなことありませんよ! 前回おばあちゃんにホウキを取り上げられてから、ひと月も経ってるんですから」


「まだ、ひと月しか経ってない、でしょ?」


「最長記録じゃないですか! 今まで半月に一度は取り上げられてたんですから!」


「それ、自慢する事じゃないよね?」


「と・に・か・く!」と真帆はずいっとこれでもかというくらい顔を近づけてくる。「私は高校三年生の最初の日を、大好きなシモフツくんと一緒に登校しようと思ってここで待っていてあげたんですから、感謝してください!」


 ほんのりと香るバラのような甘い香り、勝ち誇ったような真帆の笑顔。


 それまで鬱々としていた僕の心が、一気にその勢いに吹き飛ばされたような気がして、なんとなく気持ちが軽くなる。


「――そうだね。ありがとう、真帆」


 ふふっと真帆は満足そうに微笑んでから、


「あ、そうだ。今日の放課後、私たちに紹介したい女の子がいるって井口先生から昨日連絡がありました」


「僕たちに? それって、もしかして……」


「はい、そうだと思います」


 真帆はこくりとひとつ頷いてから、


「十中八九、私とおんなじ、魔女の子でしょうね」

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