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「こんな時間なのに、ほんとに泊まってかなくていいの?」
床框に腰かけて靴を履く蓮の背中に問いかけると、こちらを一瞥して彼は小さく頷いた。
「うん。モコが寂しがるから。」
「あー、まあそうか…康二はどうする?」
俺の右横に立って同じく蓮を見送る康二の顔を見上げる。そんな彼は壁にもたれかかるように肘をついて頭を支えていて、その前髪の間から見えたどこか憂いを纏ったその眼差しは何か思案するように揺れ動いていた。
「うーーーん…どうしよかな。俺は特に何もないし、仕事午後からやし…泊まってこかな。さっくんほんまにいいん?」
「勿論!」
多少の遠慮を添えてこちらを見る康二に、俺はにっ、と歯を見せて笑うと《じゃあ、》と頷く。とんとん、と軽快に靴のつま先を床に打つと、蓮はこちらに振り返って荷の下りたような微笑みを浮かべた。
「じゃあ、俺は行くね。」
「めめお疲れー!またね!」
「お疲れ。佐久間くん、お邪魔しました。」
「うん、お疲れ!帰り気を付けてね!」
扉が閉まるまで手を振る蓮を2人で見送れば、一瞬だけしんとした静寂が流れた。
その後は各々風呂に入って、2人で一緒にゲームして、いつものように楽しく過ごして、これぞお泊まり会!な雰囲気に気持ちが高揚した。それでも、
「そろそろいい時間だし、寝よっか?」
そう切り出すと、やっと慣れてきて膝の上に留まっていたツナを優しく撫でながら、康二は《一緒の部屋で寝ていい?》と上目遣いで言ってきた。今日はやたらと寂しがり屋が出ちゃってんな、なんて思いながら快く承諾した俺は、客人用の布団の準備をするために立ち上がった。
就寝の挨拶を交わし、暗く静まり返ってから10分ほど経っただろうか。
いつもと違って人の気配があると、なかなか寝付けないというのは康二も同じだったようで。
「…さっくん?起きてる?」
「んー?」
「最近何か浮ついた話無いん?」
「ははっ、修学旅行の夜みたいな話題なのに聞き方親戚かよ。」
そう軽くツッコむと、俺は1人を思い浮かべながら言葉を繋げた。
「でも、んー…気にかけてる子はいる、かな?」
「えぇマジぃ!?可愛い!?」
心底驚いた様子かついかにも興味津々な大声が響く。相変わらずのオーバー気味なリアクションに思わず笑みが零れ、問われた質問に素直に答えた。
「…うん、可愛い。でも、ちゃんと自分の中に芯があって、ブレないとこが素敵だなって思う。」
「ほぉーん?ええ子なんやな。ええやん。」
「うん、ほんとに魅力的で良い子。だから見ていて惹かれるのかな。」
言葉で整理していくように呟けば、ふと1つの答えに辿り着いていく。やっぱり俺は──…。
「、康二は?」
スイッチが入りそうな気持ちを振り切るように小さく頭を振り、聞いてきた本人に聞き返すと《えっ》と動揺の色濃い声があがる。…逆に何で自分は聞かれないと思ったんだろう。傍からしたら『いやその反応、絶対いるじゃん?』な反応繰り返しながら、未だに隠しているつもりであろう本人の解答を待つことにした。
「……うん。おる。」
「どんな人?」
「いや、まあまあまあまあ…。」
「ねぇ?」
何とか誤魔化そうと足掻き続ける康二に、《俺は言ったよ?どんな人?》と静かな圧をかければ、観念したように彼は口を開いた。
「…シュッとしててかっこいいけど、たまに天然かましてくるからおもろいねん。」
「あれっ?康二がかっこいい人好きになるってなんか意外かも。でもなんか、…っにゃはは、その特徴だけ聞いてると蓮が浮かんじゃう。」
あんだけ仲良くしてたら理想像に投影されるのも仕方ないか、なんて思っていると、急に寝静まったのかと思うほどに黙り込む康二。あれ?このタイミングで寝落ちた?
「康二ぃ?」
そっと室内灯を常夜灯に切り替え、上体を起こして下を覗き込むと、あからさまに顔を掛け布団で埋め、更にその上を両腕で抱え込む姿が浮かんだ。はみ出た頭部から立ち上る湯気の幻覚が見える。
───あれ?これって、
不意に思ったことを発言したつもりだった。まさかの反応を示した彼に、俺は知らず知らずに彼の気持ちに対して的を得たことを言ってしまったのだと察した。
「んっ?ん??えっ…、嘘でしょ?」
「~~~っやから言いたなかったんやん!!」
布団の中でそう康二が叫ぶ声がくぐもる。困惑と動揺に、思わず震えた声が漏れる。
「───、康二も、なの?」
「……はぁっ?!えっ!?」
がばっ、と布団を捲りあげながら身体を起こした彼は、驚きの顔をこちらを向けた。
「「………え、ええぇ…??」」
暫くお互いを顔を見ながら状況を理解しようとするも、やっぱり上手く頭が回らず、シンクロした声だけが響いた。
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