テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深くて暗い夢の中、誰かが俺を呼んでいる声がする。
「─────きろ、起きろ───起きろ!佐野!」
「うわっ!!!!びっくりした………」
先生の大きな声で俺の体は飛び上がった。
意識が、強制的に現実へ戻される。
仁人の看病をするつもりが、いつのまにか深く眠っていたようだ。
この部屋に来てからの記憶がない。
仁人がいたはずの布団は空になっていた。
「先生、仁人は?」
「お前寝すぎだ。もう夜のレクが始まる時間だぞ。」
「え!?マジっすか?」
「吉田ならもう集合場所に向かったぞ。お前があまりにも起きないから、起こしてくれと頼まれたんだ。ほら、早くお前も行け!」
「あ、ありがとうございます!」
建物を飛び出し、慌てて集合場所へ向かう。
部屋を出る時にチラリと見えた机の上のお皿は、綺麗に空になっていた。
良かった。俺が作ったカレー、仁人食べてくれたみたいだ。
自分が作ったものを、仁人が口に運んでるところを想像しただけで、胸の奥がじんわり温かくなった。
そんな事を考えながら走っていると、生徒たちが集まっているのが見えてくる。
その集団の一番後ろに、仁人がいた。
「仁人!」
「あ、…はやと、くん。」
「体調はどう?もう平気?」
「うん。色々迷惑かけてごめんね?………あと、カレー、ありがとう…おいし、かった…////」
どんどんと声が小さくなっていき、耳がほんのり赤く染まっていくのが分かった。
本人は照れているのを隠しているつもりだろうが、全く隠せてはいない。
それでも、平然を保とうとする仁人がとても弄らしく感じた。
「そういえば仁人。レクって何やるか聞いてる?」
「え、俺聞いてない…。」
「あれ、そうなんだ。俺が聞いた話だと、近くの森使って肝試しだって。 なんかもう、ベタ過ぎて逆に笑っちゃうよね………って、仁人?」
俺の言葉を聞いた瞬間、仁人の表情が固まる。
唇をきゅっと結び、何とか俺に動揺しているのを悟られないようにしているつもりだろうが、どう見ても怖がっているのは明白だった。
「仁人ってもしかして…お化けとか苦手? 」
「苦手じゃない!!ただ、ちょっと、あの、……予想してたレクと違ったから驚いただけ!苦手じゃないから!!!」
まるで漫画の一コマのような動揺っぷりに、意図せず顔がニヤケてしまう。
「な、なにその顔!」
「べつにぃ~。そっかそっか、仁人お化け大丈夫なんだ。」
「だから、大丈夫だって言ってる!!」
「分かったから、そんなにムキになんないの笑」
「は、勇斗くんが、からかうからでしょ……///」
「悪かったって。それで、2人1組らしいけど、どうする?俺と組む?」
俺の提案に仁人は、まだムッとした表情のまま、小さく頷いた。
そんな態度が可愛らしくて、またからかいたくなってしまう。
でも、これ以上ちょっかいかけると本格的に仁人が拗ねてしまいそうだ。
俺は大人しく、仁人と俺たちの番が来るのを待った。
暗闇の中、明かりは俺の右手にある懐中電灯のみ。
静寂に包まれた森は、ただの風が木を揺らす音も、鳥の鳴き声も不気味に聞こえる。
淡々と足を進める俺に反して、隣を歩く仁人は横やら後ろやら、ありとあらゆる所を警戒しながら歩いていた。
そんな怯えた様子の仁人を見て、俺の中にある悪戯心がまた顔をのぞかせた。
「仁人、そんなに警戒しなくても笑 やっぱり怖いんじゃん。」
「こわ、くない!!暗くて危ないから、周りを見てるだけで、怖くないから!!!」
「ほんと?もし怖いなら、手繋いであげてもいいけど?」
仁人の目の前に手を差し出す。
一瞬戸惑ったように見えた仁人だったが、頬を膨らませて俺の手をぺしっと叩いた。
「ばか、じゃないの…?//// てか、怖くないって言ってるじゃん!ほら、早く行こ!!」
そう言いながら、スタスタと先へ行ってしまった。
ちょっと、からかい過ぎたかな。
そんな反省をしながら、仁人の後を追うために足を前に出した瞬間、辺り一体が一気に暗くなる。
慌てて手に持っている懐中電灯のスイッチを何度か押してみるが、一切反応がない。
恐らく、電池切れだろう。
しかし幸いにも、今日は雲がほとんどない晴天で、しかも満月だ。
視界は悪くなるが、月明かりだけでも何とか進めるはずだ。
とりあえず、仁人に懐中電灯が切れたことを伝えなければ。
そう思い、前にいるはずの仁人に視線を向ける。
仁人は、顔を伏せて小さく丸くなっていた。
「っ仁人!?」
咄嗟に側へ駆け寄り、仁人の顔を覗き込む。
大きな目には今にも溢れそうなほど涙が溜まり、華奢な肩は小刻みに震えていた。
「な、なんで…明かりは……?」
「懐中電灯の電池、切れちゃったみたいで…。」
「もー…さいあく、…..ほんと…やだ………。」
小さく震える背中が、今にも恐怖に押し潰されてしまいそうだった。
もう一度、手を差し伸ばす。
「………手、繋ぐ…?」
ゆっくりと手が伸びてきて、 返事をするよりも先に、俺の指先を控えめに握りしめる。
「つな……ぐ…。」
その小さな手を握り返して、俺はゆっくり仁人を引き上げる。
恐る恐る上げられた仁人の顔は、眉尻は下がり、瞳は揺れていて、今にも泣き出してしまいそうだった。
「大丈夫だよ。終わるまで手、繋いでてあげるから。もし無理だったら、目瞑っててもいいよ?連れてってあげる。」
「………うん…。」
仁人が俺の手を両手でぎゅっと握り返したのを合図に、再び俺たちは歩き出した。
木々の間を抜ける風が、少し冷たく感じる。
山奥の夜は、思ったより肌寒かった。
そんな中、繋がれた手だけがじっとりと汗ばんでいた。