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約束の土曜日。私は鏡の前で、もう三回も服を着替えていた。
結局選んだのは、お気に入りの白いブラウスに、淡いブルーのスカート。ミナトに「気合い入れすぎ」って思われたくないけど、「ダサい」とも思われたくない。そんな乙女心が、私をずっとそわそわさせていた。
待ち合わせの駅前に着くと、ミナトはもういた。いつものジャージ姿じゃなくて、黒いパーカーにジーンズ。少し大人っぽく見える彼に、胸の鼓動が早くなる。
キララ:「(深呼吸をしてから)……お待たせ、ミナト!」
ミナト:「(スマホをポケットにしまって)お、おう。……意外と早かったな」
ミナトは私を一瞬だけ見て、すぐに目をそらした。でも、彼の耳の端が少しだけ赤いのを、私は見逃さなかった。
キララ:「(顔を覗き込んで)……ねえ、もしかして照れてる?」
ミナト:「(早歩きで歩き出しながら)照れてねーよ! ほら、行くぞ。あのカフェ、混むんだろ?」
私たちは並んで歩き始めた。駅前の大通りは人で溢れていて、ぶつかりそうになるたびに、ミナトの腕が私の肩をそっと守るように動く。
キララ:「(少し勇気を出して)……今日の格好、似合ってるね。パーカー、かっこいい」
ミナト:「(ぶっきらぼうに)……お前も。そのスカート、似合ってんじゃねぇの」
そんな何気ない会話だけで、世界がキラキラして見えるから不思議だ。
目的のカフェに着くと、そこは甘いベリーの香りで満たされていた。私たちは窓際の席に座り、メニューを広げる。
ミナト:「(メニューを凝視しながら)……なぁ、キララ。ここ、女子ばっかりだな。……なんか、落ち着かねぇ」
キララ:「(クスクス笑って)ふふ、ミナト、場違い感がすごいよ。でも、勇気出して誘ってくれたんでしょ? ありがとう」
ミナト:「(小声で)……お前が喜びそうだと思っただけだよ」
注文したパンケーキが運ばれてくると、ミナトは大きな口でそれを頬張った。口の端に生クリームがついているのを見て、私は自然と手が伸びていた。
キララ:「(ハンカチで拭いてあげながら)もう、子供じゃないんだから」
ミナト:「(固まって)……あ……」
指先が彼の熱い頬に触れる。数秒間、時間が止まったみたいに、私たちは見つめ合った。周りの話し声が遠のいて、自分の心臓の音だけが大きく響く。
ミナト:「(顔を真っ赤にして)……今の、反則」
キララ:「(顔を赤くして)えっ……何が?」
ミナト:「……なんでもねーよ! ほら、冷める前に食え!」
ミナトは慌ててコーヒーを飲んでむせていた。
ただの「幼馴染」だったはずの距離が、ほんの少しだけ、熱を帯びて縮まった気がした。
つづく