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🕊️第15章:泡の頁の交差(光の粒 編)
ねむるは、泡の粒を編んでいた。
ふたりの記憶をやさしくつないで、ひとつの光にしていくように。
その瞳には、遊んだことも話したこともないやわらかい優しさが宿っていた。
律に渡したかったのは、静かででもちゃんとあたたかい“昔の気配”だった。
ねむるは泡の頁の隅で、まばたきをした。それが光の粒になった。
律は泡の図書館のなかを歩いていた。
まるで無重力の空間みたいに、泡粒が音のようにただよっていた。
棚はない。でも、それぞれの泡がページになっていて、彼の気配に応えて震えていた。
ねむるのまばたきがそっと導いて、律は一粒の光に手を伸ばす。
——なぜ、言わなかったの?
泡の粒が応えるように光る。
揺れた髪、視線の奥にあった願い。
律は思った。「あれは——好き、だったんだ」
言葉にしなかったけれど、ちゃんとあたたかく響いていた感情。
その時、聖名(みな)も別の泡に触れていた。
指先がふるえるほど静かな粒。
そこには、自分の知らないはずの記憶が漂っていた。
横顔、近くにいた気配、まばたきの合図。
それが、今の自分にも届いている——と、彼女は確かに感じた。
ふたりの手が、それぞれの泡に触れていた。
でも、感情は同じ場所にあった。
ねむるはふたりの間で、まばたきをする。
泡の粒がひとつ、ふわりと光る。
空気がやさしく揺れて、図書館の中に、まだ知らない名前の気持ちが灯っていた。