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🫧第16章「泡の余白、君の旋律をほどく午後」
泡図書館に午後の光が差し込んでいる。
書架のあいまを風のような泡がすり抜け、
頁の端に、誰かの音が揺れた。
聖名(みな)はそっと鍵盤に触れる律の姿を思い浮かべる。
目元は伏し目がちで、
まるで他人の視線を拒むように見えた。
🎼挿し込み描写:律の内面
律はずっと、“表情が薄い”と言われてきた。
泣いたことはある。笑ったこともある。
でも、それを誰かに見せると、音楽が“感情のためのもの”にされてしまう気がして怖かった。
彼は、静かな演奏でしか、自分を守ることができなかった。
それを“こもっていない”と言われても、
なお――彼は鍵盤に触れた。
聖名(みな)は、泡日記を開きながらそっと思った。
その音には感情が宿っている。
それも、“言葉にはできなかった種類の感情”だった。
📓泡日記・午後の頁
律くんは、感情を出さないんじゃない。
誰にも奪われないように、泡の奥に隠してるだけなんだと思う。
鍵盤を押す瞬間に、音が震えてる。
それは誰にも見えない、君だけの感情。
泡図書館の午後、頁の奥に小さな泡の粒が浮かんだ。
それは“言えなかった言葉”の記憶。
聖名(みな)はふと気づく。
自分が知った先生の言葉――
律が特待生レッスンのときに言われたこと――
それは直接聞いたわけじゃない。
でも、泡日記に残された律の記憶が、彼女に伝えていたのだった。
🎹泡の想起:記録されなかった感情
レッスン室の空気。
冷たい言葉。
譜面の余白に置かれた手。
律は、その場で何も言えなかった。
でも、泡となった記憶がその痛みを聖名(みな)に届けていた。
彼女はそっと泡の頁に言葉を編む。
📓泡日記・余白の頁
先生の言葉を、わたしは聞いていない。
でも、君の泡の粒が語った。
言われたとき、君がどんなふうに呼吸を止めたか。
その沈黙の中で、音が泣いたことを。
泡図書館の午後、頁がまたひとつ開いた。
その奥で律の音が、ふわりと揺れた。
感情を隠すことでしか、自分を守れなかった彼の旋律が、
今、聖名の泡の筆でそっとほどかれていく。
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