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ちょっと笑ってはくれたものの、そこから先はどう話を切り出せばいいのかがわからなくて、私は運ばれてきたコーヒーを一口流し込むと、目の前のカイの顔をそっと盗み見た。
彼は、浅めに帽子をかぶっていて、つばからのぞく少し長めな前髪の陰には、睫毛に縁取られた、あの艶っぽい瞳が垣間見えていた。
「かっこいいよね、だけど…」
ずっと彼のことを眺めていたら、つい思ったことが口からこぼれ出た。
「かっこいいとか、興味ない」
コーヒーを飲んで、カイがつまらなさそうに一言を吐き出す。
「……でも、バンドでは一番人気でしょう?」
手持ち無沙汰にコーヒーカップを持ち上げて、彼へ問いかけると、
「人気にも、別に興味はない。俺はただ、歌えればいいだけだから……」
そうボソリと答えが返った。
歌えればいいだけ……って、割とストイックな考えを持ってるんだなと思う。
「……だけど、売れたいとかモテたいとか思って、バンドやってる人も多いのにね…」
歌いたいだけだと言う彼の考えが、なんだか今時っぽくもなくて単純に不思議に感じて、思わずそんな風にも口にすると、
カイは睨みつけるようにも私を見て、
「……そういう、凝り固まったイメージみたいので話すの、やめてもらえるか」
と、露骨に嫌そうな顔をした。
こちらを本気で睨む彼の瞳に、取材の中で勝手に作り上げた固定観念が、自分の中にすっかり染みついてもしまっていることに、今さらのように気づかされる。
「そうだよね、ごめんなさい。自分勝手なイメージでしかないよね…」
悪かったと思い、彼へ素直に謝ると、
「あんた…なんでも直球なんだな。思ったことをそのまま言ったり、そうやって謝ってみたり…」
「直球って言えば、あなたの方も……」
指摘されたそばから漏れる心の声に、あわてて自分の口をおさえると、
「俺が?」
カイがそんなこと思ってもみなかったと言うように、目を大きく見開かせた──。