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「そんな……なんで……」
アオイの目の前に現れたのは、ジュウジュウと音を立て、黒い鉄板の上で肉汁を跳ね飛ばすステーキだった。
右半分はキメ細かい赤身肉。
左半分は魚のように白く柔らかい身。
中央の切り替わるラインには、贅沢に香草バターがとろけて流れていた。
「す、すごい……お肉とお魚、両方楽しめるなんて! お酒が進まないわけないよ! すごいすごい!」
アオイは満腹だったはずなのに、グラスを抱えてはしゃぐ。
瞳をきらきらと輝かせ、ふわりと笑うその姿に、目の前の男は思わず息を呑んだ。
「ありがとう! いただきます!」
アオイはナイフとフォークを構え、まずはお肉の部分にナイフを――
スッ……と、音すらなく切れる。
中から、熱々の肉汁がとろとろと溢れだし、鉄板に落ちた瞬間――パチン、と香ばしい匂いが弾けた。
「あむっ……」
口に入れた瞬間、アオイは言葉を失い――次の一切れ、そしてまた次を切り始める。
斬る。
食べる。
斬る。
お酒を飲む。
斬る――
「これ本当に美味しいよ……! なんのお肉なの?」
男は満足げに答える。
《バルクファスのステーキ》――
ミクラル最高級食材。
倒すには、ルビー級冒険者のパーティーが必要とされる幻の魔物。
「なるほど……だから高いのかぁ。……でも、こんなに美味しいなら納得だよね♪」
頬を染め、ふにゃりと笑うアオイ。
その姿は、まさに“幸福そのもの”。
――同時刻、《モルノ町》近く、戦場にて。
「どうして……あんたが……」
エンジュが空を見上げると、そこには禍々しいオーラを放つ『漆黒の騎士』の姿があった。
彼が手にした弓を分割し、黒き双剣に戻す。
風を裂いて地面へと急降下し、《ゲルロブスター》の首を――
スッ……と音なく切り落とす。
首が飛ぶ。内臓が溢れる。
そして、エスは――次の魔物へ。
斬る。
殺す。
斬る。
肉を裂く。
斬る――
彼の剣が通るたび、地に魔物の死体が積み上がり、血が泡立ち、肉が弾け飛ぶ。
「エスさんだぁあああああ!!!」
部下たちは歓喜の声をあげる。
「なんで……あんたら……そんなにアイツを……?」
困惑するエンジュの背後から、聞き慣れた声。
「不思議に思うのじゃ?」
「っ……ルカ……!」
制服姿のルカが、砂煙の中から現れる。
「【拠点】の《グレゴリ》どもは群れごと消し飛ばしておいたのじゃ。結界も二重にしといたから安心せい」
「……どうして、私たちを?」
「ふふん、決まっておるのじゃ」
ルカは、慣れない笑顔でエンジュにウインクしながら――
「『仲間』なのじゃ。ぐえっ!?」
その瞬間、吹き飛ばされたエスがルカに直撃し、ふたりで転がっていく。
「何をするのじゃ!!」
「お前が邪魔だったんだ……」
軽口を叩きながらも、ふたりは並び立つ。
そして、エスはエンジュを見た。
「尾が魚。筋肉質。角が二本。……10メートル級の魔物を知っているか?」
「は……なんだい、クイズかい?」
エンジュは笑いながらナイフを構える。
「《バルクファス》……ルビー級でやっと狩れる化け物さ」
「それが5体いる。俺とルカで3体片付ける。残りは頼んだ」
「へっ……上等だよ」
エンジュは深く息を吸い、戦場を睨み――叫ぶ。
「おい、アンタたち! 聞いての通りだよ! いつも通り、気張んな!」
「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
“仕事”開始。
――その頃、アオイはステーキを切りながら、にっこりと笑っていた。
「ごちそうさまでした♪」
『アオイちゃんお守り部隊』は裏で動く……
全ては『女神』の為に。
________
教科書:職業【冒険者】の階級について
冒険者はギルドに所属し、依頼を達成することで評価が蓄積され、一定の実績により階級(ランク)が昇格していく。
階級は以下の通りに分類される:
• ブロンズ級
• シルバー級
• ゴールド級
• プラチナ級
• ダイヤモンド級
• ルビー級
• サファイア級
• エメラルド級
上位階級になるほど依頼の難易度と報酬も高くなり、特別な装備の使用許可や国家との直接契約が可能となる。
なお、エメラルド級冒険者に昇格すると、各国の【代表騎士】候補としてテストを受ける資格を得る。
このテストに合格した者は、国公認の特級戦力として認定され、王族直属の任務にも関わることがある。