そんなとっても幸せな日々を過ごしていたある日、突然鈴木さんと、青木さん、風堂さん、御上さんに和華とパラオ様が呼ばれました。
「どうしたんですか?」
和華がそう尋ねると鈴木さんが深刻そうな顔をして口を開きました。
「これから此処も戦場とかすると思われる。だ から、和華とパラオは島の人達を連れて逃げろ」
鈴木さんが少し悲しそうな声でそう告げました。
「嫌です!和華は、和華達は戦います、戦えま す!和華達だけ逃げるなんて出来ません」
和華は必死に訴えました。パラオ様もそれに乗って一緒に訴えました。
「さっき、上官から伝令があったんだ。もう、米国が攻めてくる可能性は、必ず、と言っても良いぐらいなんだ」
青木さんが下唇をグッと噛んで苦しそうな表情でそう言いました。
「でも、」
「和華ちゃん、パラオちゃんに何かあったら守れるのは貴方だけなのよ」
御上さんが悲しそうに瞳の奥を揺らして、貼り付けたような笑顔で和華の肩に手を置いて優しくそう言いました。
「それでも!和華は日本兵さん達を置いて行くなんてできません!」
和華のほっぺたは何故か濡れていました。
「一緒に戦うだ?ふざけるな!我等が帝国軍人 が貴様等のような土人と共に戦えるわけないだ ろう!目障りだ、直ちに出ていけ」
今まで一度も外れる事の無かった風堂さんの 敬語が取れて、声を荒げてそう言いました。それがどうもこうも、悲しく、和華はつい、「大嫌いです!」といって、パラオ様の手を引いて出ていきました。
(人間の事なんて、信じるんじゃ有りませんでした!)
和華の目は何故か、潤い過ぎて、前が霞んでいました。
そんな和華の手をパラオ様はギュッと握り返してきました。
他の島民達も日本兵さん達に追い出されて、続々と船に乗りました。
出港して少し、 島の方を向くと日本兵さん達が手を振って見送ってくれていました。パラオ様も、和華も、目を丸くして驚きました。勿論そこには、御上さん、鈴木さん、青木さん、風堂さんもいました。
そこで和華は気づいたんです。さっきのひどい言葉は和華達が戦わなくて済むようにかけた言葉だったんだと。声はもう届かないから、パラオ様と一緒に、島民のみんなと一緒に、精一杯大きく手を振りました。手を振る和華とパラオ様の目には涙が浮かんでいました。