「僕以外なんて、ありえないでしょう?」
囁くような声に、私は息を呑む。夜臣の指がじわりと食い込む手首が熱を持ち、じんと痺れるような痛みが走る。
「……っ、やめて……夜臣、痛い……っ」
そう訴える私を見て、夜臣は微笑んだ。まるで、幼子をあやすかのように優しく。
「……痛い? そっか、ごめんね」
言葉とは裏腹に、掴む手は離さない。いや、それどころか、指先が私の肌をゆっくりとなぞる。手首から腕へ、まるで私の熱を確かめるように、丁寧に。
「でも、僕の気持ちも少しは分かってほしいな」
顔を寄せ、そっと耳元に息を吹きかける。その低く甘い声に、背筋がぞくりと震えた。
「君が僕以外のことを考えてるだけで……頭がどうにかなりそうなんだよ」
「っ……そんなの……おかしいよ……」
途切れ途切れに紡がれる言葉に、夜臣の目が細められる。
「おかしい?」
ふっと喉を鳴らして笑う。
「ねぇ、君は知らないんだよ。僕がどれだけ君を想ってるか……どれだけ、君のために生きてるか……。こんなに愛してるのに、どうして君はわかってくれないの?」
「……わかるわけ、ないよ……」
掠れる声で呟く私に、夜臣の笑みがかすかに歪む。
「そっか……やっぱり、まだ分かってくれないんだね」
夜臣は静かに立ち上がると、ポケットに手を滑り込ませた。ジャラリ、と鍵が鳴る音がする。
「……仕方ないね。君がちゃんと僕を愛してくれるまで、ここから出すわけにはいかないよ」
カチャリ、と鍵がポケットの中で収まる音がする。夜臣は穏やかに微笑みながら、私を見つめていて。その瞳には狂気の色が滲んでいる。
「ねぇ、君も、僕だけを見ていればいいんだよ?」
暗く甘い囁きが、密室に絡みつく。
ゆるりと微笑みながら、夜臣はベッドに腰を下ろした。私を見つめる瞳は優しさに満ちているのに、その奥には拭いきれない執着が滲んでいる。
「……なんで、こんなこと……」
私は震える声で問いかける。どうして鍵をかけたのか、どうしてこんなふうに閉じ込めようとするのか、ーー夜臣が本気で言っているのか、まだ信じたくなかった。
「なんで……?」
夜臣は小さく笑った。そして、私を抱き寄せる。
「そんなの、決まってるでしょう?」
腕の力は強く、逃げられない。けれど、それよりも感じるのは、まるで宝物を抱きしめるような、深く甘い愛情だった。
「僕はね、君の全部が愛おしくてたまらないんだよ」
柔らかな唇が髪に触れる。夜臣の指が私の背中をなぞり、優しく抱きしめながら、まるで子供をあやすように囁く。
「君がどこかへ行こうとするたびに、心臓が痛くなる。息が詰まるんだ。もう仕事なんて手につかないし、何をしてても、ずっと君のことばかり考えてる……ねぇ、そんなの、苦しすぎると思わない?」
「夜臣……」
仕事が手につかない? そんなに、私のことを……?
「だから、もう全部捨てたよ」
「……え?」
「仕事も、何もかも、いらない。君さえいてくれれば、それでいい」
あまりにも純粋すぎる愛の言葉に、私は息を詰まらせた。
「君のためなら、全部捨てられる。だから、ね?」
夜臣は貴女の頬に唇を落とし、囁く。
「僕だけを見て、僕だけを愛して……それが君の幸せなんだから」