俺の名前は阿蒜寛太。訳あって兄貴分の家に来ているペーペーの極道だ。
伊武「…それで、こうなるから、ここの守代はこの月になるな」
阿蒜「分かりました」
俺の目の前にいるのは伊武の兄貴。厳しいし怖いが、面倒見がよくて、俺の憧れの先輩だ。
俺達は今、天羽組や内部での抗争中ということもあって、ものっ凄く多忙だ。だから、休日も利用して兄貴分の家を訪れ、書類の整理なんかをしている。
伊武「やっと、終わったなぁ」
阿蒜「ひゃ、ひゃいぃ…疲れましたぁ…」
仕事が一段落ついて、俺は肩の荷が下りきっていた。
伊武「…」
ツーッ
阿蒜「ひぅっ??!!」
突然えもいわれぬ変な感覚に襲われ、俺は慌てて後ろを振り返る。伊武の兄貴が悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
伊武「成程…お前は脇腹が弱ぇのかぁ」
阿蒜「うぅ…止めてください…」
伊武「泣くほどとはなぁ、どんだけ敏感なんだか…
…そうだ」
何か思い付いたような言葉と当時に、伊武の兄貴は唐突に無防備に両手を広げた。
伊武「阿蒜、俺の弱点を探してみろ。俺は何も抵抗しないし、好きに触っていいから」
阿蒜「えっ?!?!?!」
伊武「俺だって、お前の弱点を突いて、お前を泣かしたんだ。その復讐みてぇな感じで」
俺は困り果ててしまった。
―兄貴分の体にひたすら触れ、弱点を探す―。
過去最高レベルの難題だ。俺を除いても、舎弟の中で簡単に「はい!」と言える奴はまずいないだろう。しかし、兄貴分の命令は絶対だ。ましてや武闘派の伊武の兄貴、尚更逆らうわけにはいかない。
伊武「…何をしてる。早くしろ」
阿蒜「は、はい…」
返事はしたものの、何をすればいいのか分からない。兄貴が俺にやったように、くすぐったいところなんかを探せばいいのか?
俺はとりあえず伊武の兄貴の言った通り、兄貴の体の色んなところをつついたり、くすぐったりしてみた。でも、流石は伊武の兄貴と言ったところか、全く反応がない。
伊武「どうした?もう終わりかぁ」
阿蒜「うぅ…」(く、くそ…分っかんねぇ…!)
背中、足、脇腹、腰…経験上俺がくすぐったいと感じた箇所はやり尽くした。でも、伊武の兄貴は全くと言っていいほど反応がない。
その時、俺はあることに気付いた。
阿蒜「えいっ!こちょこちょ~!」
母「ちょっと寛太~!やめてよ~!あはは、く、くすぐったいでしょ~!」
阿蒜「あはは、お母さんってば、首弱すぎ~!」
母「も~!」
阿蒜(そうだ…俺は)
そう、俺は自分の基準でくすぐったかった箇所を触っていたため、首を見落としていたのだ。…いや、違うかもしれない。でも、これしかない!
阿蒜「兄貴…失礼します!」
意を決して、俺は伊武の兄貴の首に触れ、思いっきりくすぐった。すると―。
伊武「んぅっ…!」
伊武の兄貴は微かに震え、小さな声で喘いだ。普段からは考えられないような兄貴の様子に吃驚した俺は慌てて飛び退いた。
阿蒜「うぉわっ!…う、…す、すみませんっ!」
俺の謝罪に答えることもなく、伊武の兄貴は首元を押さえながら俺の方を向いた。
伊武「っ…、情けねぇなぁ…舎弟の前だってのに…でも、俺は昔から…ここ、だけが…だ、駄目なんだ…」
よっぽど敏感だったのか、伊武の兄貴は涙目になっていた。
阿蒜(…何だ?この気持ち…こんな兄貴見たことねぇ。もっと、いじめてやりたい…)
「すみません兄貴。多分まだ…終わらないかもしれません」
そう言うと俺は伊武の兄貴の首に手を伸ばし、さっきとは比べ物にならないほど激しくくすぐった。
伊武「はっ…あ、ぐうぅっ!…阿蒜…!やめろっ…!」
今思い返すと、何で伊武の兄貴は抵抗しなかったのだろうか、俺より遥かに強いのに。…まさか、それも弱点のせいか?
いや、どうでも良かった。とにかく俺は、この人を弄りたくて弄りたくて仕方がなかったから。
―それからしばらく、俺は伊武の兄貴の首を弄り続けた―。
阿蒜「…この度は、まことに申し訳ございませんでした…」(死にたい…)
数時間後、やっと伊武の兄貴を解放した俺はとんでもない後悔に苛まれ、兄貴に土下座していた。
伊武「あそこまでがっついてくるなんて、そんな欲張りは全く羨ましくねぇなぁ。死んでいいなぁ…」
殺戮オーラを剥き出しにして、伊武の兄貴は鉄棒を構えている。
あぁ、これを読んでいる皆。俺はもうお仕舞いです。サヨウナラ…
伊武「…と言いたいところだが、俺が言い出したことだし、何より舎弟の前であれだけ無防備になった俺にも責任がある。
…それに、考えてみりゃあ、弱点を攻められるのも悪くなかったしなぁ。苦しいのを通り越して、気持ちが良かった」
気のせいだろうか、何かに目覚めてねぇか?この人…
色んな意味で困惑している俺の耳元で、伊武の兄貴はこう囁いた。
伊武「また、気分が乗ったら…頼むわ」
色気のある声と吐息のせいか、顔が妙に熱くなってくる。この時の俺はきっと情けない顔をしていたに違いない。
伊武の兄貴と別れた後でも、俺の頭は煙に巻かれたようだった。
阿蒜(?…マジでなんなんだこの気持ち…あの人の顔も、声も、何一つ頭から離れない…)
多分、この気持ちはしばらく続くのだろう。俺は何故か感覚的にそれだけははっきりと感じていた。
そう、極道としての生活も、決して言い表すことのできないこの気持ちも、きっと終わることはないのだ。
そんなことを考えながら、俺は金木犀の香る道を通り過ぎ、静かに帰路についた。
コメント
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でもねぇ、阿蒜君が攻めなのはどーしても違和感が拭えないので、次からは龍本の兄貴に頼み込むことにしました🎵いずれにせよ苦手な方はお逃げ下さい(^o^)
あびいぶ、いいねぇ!!!