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最終話:君に会えてよかった
文化祭当日。
校舎中がざわめきと笑い声に包まれている。
クラスの「脱出ゲーム」も大盛況。
だけど、翔太は、浮かない顔だった。
「佐藤、来てねぇの?」
矢口の問いに、翔太は首を縦に振った。
「連絡もない。……昨日の“ちょっと”のまま」
そんな時だった。
教室の扉が、そっと開いた。
「……ごめん。遅くなった」
そこには、いつものポニーテールではなくロング姿の芽がいた。
翔太の目が、大きく見開かれる。
「来てくれて……ほんとに、来てくれてありがとう」
芽は小さく笑った。
「会いたいって思えたから」
***
文化祭の終わり。
夕焼けに染まる校舎の裏庭で、ふたりは並んで座っていた。
「信じられないって思ってた。怖かった。でも、逃げてる自分がいちばん嫌だった」
芽の言葉に、翔太は静かに頷いた。
「俺は、お前の“ちょっと”を待ってた。でも今は、ちゃんと言いたい」
翔太は立ち上がって、芽に向き直った。
「好きだよ。ちゃんと、正面から。もう、すれ違いたくない」
芽は、ゆっくり立ち上がって、翔太の目を見た。
「……うん。私も。ずっと好きだった。これからは、ちゃんと一緒にいたい」
沈んでいく夕日が、ふたりを優しく包んだ。
その光は、すれ違ってきた日々さえも、そっと肯定してくれるようだった。
***
向かいの教室の窓から、そっとその様子を見ていた花恋が、小さく微笑んだ。
「……バイバイ、翔太。幸せになりなよ」
そして背を向けて歩き出す彼女の背中に、秋の風が優しく吹いていた。