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「僕に言われてもわかんないって…」
そう言うと、笑っていたクロノアさんは笑顔で僕の方を振り向き、言葉を発する。
「だって、しにがみくん俺のこと突き放そうとするくせに助けてくれたんだもん! 」
「うぐっ……」
図星で出る言葉もない。
でも、確かにそれは自分でも思ってしまった。自分から突き放したくせに、どうして体が動いたのか、わからない。
いや、一つだけわかる。原因は彼だ。
「……死のうとしましたよね?」
「………。」
そう問いかけると相手は固まった。笑顔だけど、目は笑っていない。本当によく分からないな。
「……んー、まぁ、ちょっと?w」
「………。」
くすっと笑ったクロノアさんは、へにゃっと笑顔になっていた。
「見た感じ、普通の人だと思ったんですけどね…。」
「………なにそれ。」
凍りつくような声音だった気がする。この後の言葉が、何だか喉につっかえて出てこないような感覚に陥った。
「や…だって、階段から落ちようとするなんて普通の人じゃ___________ 」
普通の人なんかじゃない。そう言おうとした時だった。
クロノアさんに両手首を掴まれ、屋上の扉に押しつけられる。背中に痛みが走ったけど、そんなこと気にしてる場合なんかじゃなかった。
「しにがみくんだって、普通じゃないじゃん。」
「______っへ…?」
目にハイライトは無く、冷酷な顔でそう言われた。酷く怖くて、体にさえも力が入らなかった。彼の顔も、まともに見れた気がしない。
「そう思ってるんでしょ?自分でわかってるんじゃない?」
「っ……」
もう、声も出せなかった。出せたとしても、か細くて掠れた声だと思う。涙が零れ落ちそうになると、クロノアさんはハッとした顔つきになって、力のこもった手をすぐに離した。
「っ……ご、ごめっ…」
「っ!!」
「あっ!しにがみくん!!」
クロノアさんが何かを言う前に、僕は怖くて逃げた。そりゃそうだろ?!転校生に初っ端あんなことされて…。
(………あー、やっぱり嫌いだ…っ!!)
怒らせたのは僕なのに。地雷を踏んだのは僕なのに。何でこんなにも…憎い存在になっちゃったんだよ…!!
…………………………
「……。」
屋上の階段を下りていくしにがみくんの背中を追いかけることはしなかった。追いかけても、仲直りなんてできっこないし、声のかけ方もわからないし、また…ああさせるのは嫌だから。
「……手、ガムテープで固定しろよぉ…。」
屋上に通ずる扉に寄りかかって、掠れた声を出した。
涙が溢れて、止まらなかった。
(………死ぬのって、ダメなの?俺のことも嫌いな目をしてたじゃんか…しにがみくん…。)
天井をぼーっと眺めて、心が落ち着くまで力を抜く。
「……ハハ、帰んなきゃね。…先生が待ってる。」
そうして立ち上がり、教室まで走って向かった。
階段に響く足音も、泣き声が響く廊下も、騒がしい教室の音も……全部、やけにうるさい気がした。
…………………………
「……。」
俺______ぺいんとは、まともに授業を受けていた。いや、俺は、じゃなくて、俺も、だな。
「……ん〜…?」
今は数学の授業で、俺の斜め前に悩ましげな表情をする男_____トラゾーだ。彼も、真面目に授業を受けていた。
俺が教えにいって、煽って、笑い合って、雰囲気が良くなって………なんて、一通りのことを考えていた。
声掛けなんてできないくせにな。
「じゃあトラゾー。解けるか?」
「へっ…えっ、とぉ〜…」
先生に当てられたトラゾーは肩を震わせ、ゆっくりと立ち上がる。その時、話しかけるチャンスだと思った。だから俺は、ゆっくりと立ち上がっているその間に小声で「52……」と言った。
それを聞き取ったのか、トラゾーはすぐに「52です…!」と答えた。
「正解。」
トラゾーは安堵の息をついて、席に座った。すると、俺の方向を向いてくる。手でジェスチャーをしていて、どうやら”サンキュー”と伝えているらしい。
それに俺は”まぁな”とでも言うような反応をすると、相手はクスッと笑って前を向いた。
その笑顔に、俺は何故か目が離せなかった。
(人からあんな笑顔向けられたの…初めてだ。)
そのときなぜか俺は、高揚感があった。
ふと、ガラガラっとドアが開く音がする。音の方に視線を向ければ、しにがみくん…っていう生徒を連れ戻しにいったクロノアさんが帰ってきた。
「! しにがみはいたか?」
「……いいえ、見つかりませんでした。」
「そうか…わざわざごめんな」
「大丈夫です。」
そうして、クロノアさんは俺の左隣に座る。
あぁ、席順として言えばクロノアさんとトラゾーは窓際の席で、しにがみくん…がトラゾーの右隣、俺がクロノアさんの右隣だ。
(※イメージ図)
前
窓 tr sn
側 kr pn
後
隣に座ったクロノアさんは、教室に出る前より元気がなさげだった。…まぁ、ただの勘だけど。
(………悲しい顔だな。)
ふと、そう思った。