キーンコーンカーンコーン………
予鈴が鳴った途端、教室にいる生徒たちは騒がしくなる。
時刻はお昼で、お昼ご飯の時間だ。お弁当を出す人もいれば、少しの間友達と駄弁る人もいるし、先に手を洗いにいく人なんかもいた。
そんな中、俺____ぺいんとはお弁当も出さずに教室から出た。
「……っうぐ…っ。」
抑えているつもりでも、声が漏れる。壁に手をついて、フラフラしながら歩く。それでも、なるべくいつも通りを装って。
そうして俺が辿り着いた先は、屋上だった。
澄み渡る空気に、青白い空、開放感のあふれるその屋上にあるのはベンチが四つほど。
その一つに俺は寝転び、空を仰ぐ。
(…………きれーだなぁ。)
俺の心が汚いからこその感想かもしれないが…でも、誰しもが見ても空は綺麗だと言う。
何でだろうな。
普通、俺みたいに汚い人が空を見て綺麗だと言うのはわかるけれど、綺麗な人が空を見ても綺麗だと言う。謎の理論なのか、そういう世界の常識なのか…。
でも、一つ言えるのはこれだけだ。
(みんな、どっかしらきたねーんだよな。)
眩い太陽から目を伏せるために、腕で目を覆い隠す。そうしたら、楽になるから。
……………
「むむっ………」
僕___しにがみは屋上の扉の前で格闘していた。なぜなら、屋上のベンチには先客がいたからだ。しかもいつものポジションを取られていて、少しばかり腹が立つが仕方がない。
僕はその場に座って弁当の包みを開けた。ふりかけの裏に書かれた親からのメッセージは、いつもの心の支えだ。
僕が僕であるための、心の支え。
「もう崩れるっての…」
そう言いながら、僕は箸を手に取ろうとしたときだった。
ある疑問が、僕の頭によぎる。
……箸を取ろうとした手を止めて、弁当をもう一度最初の状態に戻す。
そうして僕は、屋上の扉を開けた。
ベンチに横たわっているのは、あの転校生のぺいんと…さんだ。寝ているのかわからないけれど、目を覆い隠している。けれど、ぺいんとさんの真上に太陽はない。どちらかと言うと、僕の座っているベンチの方に太陽がある。
ベンチに腰掛け、弁当の包みを開ける。そうしてご飯を口に運んだときだった。
「…あっ、もしかしてしにがみくん?」
「んぐっ?!?!」
急なぺいんとさんからの声かけに、僕はご飯を喉に詰めそうになる。水筒の蓋を開け、急いでお茶を飲む。ごくっと喉を鳴らして、冷たい感覚が僕の体に広がった。
「っ…し、しにがみですけど……。 」
「はは!やっぱり!!」
小さな声でそう言った途端、彼は横たわっていたベンチから起き上がり、僕の方向を見てから僕の隣へと座った。
「うっわ!お昼うまそ〜!!」
目を輝かせ、彼はそう言った。
前々から思っていたが、お昼が美味しそうなんて言われても僕が作ったわけではないので反応に困る。
そんなふうに困っていると、ふとぺいんとさんの持つべきものが持たれていないことに気づく。
あんまり声は出したくないけど、この人なら何だかいけるのかも、なんて思った。思ってしまった。
「………お弁当は?」
「ない!!てか俺、お腹空かないんだよね〜!」
「そ、そうなん…ですね……。」
目を逸らしてそう言うと、ぺいんとさんは不思議に思ったのか「?」な顔をしていた。
少しばかり気まずい。
「…そうだ、クロノアさんと何か話した?」
「っ…。 」
ふと出てきた人物名に、僕は肩を震わせることしかできなかった。
なんて答えればいいのかわからなくて戸惑っていると、相手は吹き出した。
「クロノアさんってめちゃくちゃ優しいけどめちゃくちゃ面白いんだよ!」
「………。」
優しいことは、わかる。
でも、突き放せば突き放すで危なっかしいことするし…よくわからない。そんな顔をしていると、相手は空を見上げて喋り出す。
「…クロノアさんはさ、本当は人と話すこと苦手なんだよ。」
「……えっ?」
突然の告白に、僕は目を丸くすることしかできなかった。何てったって、あの話しかけ方具合からするとコミュ力お化けなのだ。どう考えても人と絡むのが苦手な人には_______
(_________っあ。)
ふと僕が心の中で喋ろうとしたことを止める。
この先の言葉を喋ってしまっていたら、完全犯罪を犯した気分になるからだ。
…何てったって、今僕が思ったことは完全に偏見なんだから。自分が偏見を言われたら嫌なくせに、自分では偏見を言っていいなんて、そんなことはない。
僕は、大バカ者だ。
「…………クロノアさんのこと、話してあげようか。」
ぺいんとさんは真剣な顔をして、そう言った。
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