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廉が、陽光に煌めく横浜港の海を見ながら口を開いた。
「君が作った黒い革製の財布…………持ってたよな?」
「ええ。今も使ってますけど……」
優子は赤のミニボストンバッグから財布を取り出し、テーブルの上に置くと、廉がそこに視線を落とした。
「…………手にしてみてもいいか?」
「いいですけど……。中に入っているお金、取らないで下さいねっ」
「ハハハッ……取るワケないだろ」
廉は、苦笑を浮かべながら、優子の愛用している二つ折りの財布を手に取り、しげしげと見始めた。
「縫製の粗が目立つので、あんまりジロジロ見ないで下さいっ……。恥ずかしいし」
「そうか? とても良くできていると思うが。革の質感もいいし、作りもしっかりしている。俺が欲しいくらいだな」
「せ…………じゃなくって、れっ……廉さんには、ハイクラのブランド財布が似合うと思います」
優子は、早く財布を返してくれないか、と思いつつ、ソワソワしているのを知ってか知らずか、彼は、小銭入れのスナップボタンを見たり、カード入れや札入れの作りをチェックしているようだった。
「なぁ、岡崎」
ひと通り見定めして満足したのか、廉が彼女の前に黒革の財布を置いた。
「はい」
「…………革製品を作る工房をやってみたらどうだ?」
「…………え?」
彼がテーブルに両肘を突きながら手を組むと、真っ直ぐな視線を向けられた優子。
「財布以外にも、革製品を作ってたんだろ?」
「ええ…………まっ……まぁそうですけど……」
「せっかく皮革工芸の技術を身に付けたんだし、俺は、生かした方がいいと思う」
「…………」
誠実な眼差しに包まれた彼女は、何て言葉を返していいのか、言葉に詰まってしまった。
(専務……私が刑務作業で作った、売れ残りの財布を見て、そんな事を考えていたなんて……)
二人の男と、肉体関係をズルズルと持ち続けている場合ではないのは、分かっている。
いい加減、地に足を付けて自立していかないといけないのは、ここ最近、優子が思う事だ。