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「でも、その前に……私の生活基盤を整える事が……最優先事項です。仮に、皮革工房を始めるとしても、資金を貯めないとならないですし」
「まぁ焦らずに、一歩一歩、進んでいけば……いいんじゃないか?」
「せ……じゃなくって……」
「ハハッ…………やっぱり俺の名前、呼び慣れない感じだな」
彼は、彼女を揶揄うように、ニヤッと笑みを覗かせる。
「れっ……廉さんのお陰で、少し前を向けるようになった気がします。廉さんと再会したばかりの頃は……人生を悲観して、ヤケになってたので。ありがとう……ございます」
優子が、はにかみながら唇を緩めると、彼に軽く会釈をした。
「もし、岡崎が工房をオープンさせたら…………俺が……最初のお客さんになるよ」
照れ混じりの笑みを彼女に向けた彼が、伝票を掴み、立ち上がった。
「さて、まだ外は暑いから、近くのショッピングモールに行ってみるか」
「はい」
二人は会計を済ませると、廉が先導して、レストランを後にした。
横浜のシンボル的な高層ビルの一階から五階は、ショッピングモールになっている。
夏のクリアランスセール中のせいか、多くの客で賑わっていた。
吹き抜けの高さが五階まであるせいか、外から柔らかな光が降り注いでいる。
「岡崎、どこか行ってみたいショップとか、あるか?」
「でしたら、横浜生まれのニシムラに行ってみたいです」
「バッグで有名な?」
「はい。多摩地区周辺だとショップもないので」
「よし。さっそく行ってみるか」
優子の少し前を歩いている廉は、どこか楽しそうに見える。
「廉さん…………何だか、すごくご機嫌ですね」
「そうか? 気のせいだろ」
彼が立ち止まり、振り返って彼女を見やると、表情を僅かに綻ばせていた。
「岡崎。どうした? 行くぞ」
「えっ…………あ……ああ、はい……」
廉が、さりげなく腕を伸ばしてくると、大きな手が白皙の手を包み込んだ。