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第2.5話 特定のハンドルネームの人ならサービスいたします。
店の扉が開くと、軽い音が鳴った。
壁一面に並ぶキャラクターの装飾。
低い天井から、控えめな音楽が流れている。
列に並び、端末を片手に待つ。
前の客が注文を終え、足音が遠ざかる。
順番が来る。
端末を差し出す。
店員が画面を見る。
一瞬、視線が止まる。
端末から、短い音が鳴った。
それは偶然のようで、
狙って出すには少し難しい響き。
店員が小さくうなずく。
カウンターの下で、別のボタンが押される。
グラスが一つ、追加で置かれる。
何も言われない。
説明もない。
ただ、端末の名前と、
さっきの音だけが、そこにあった。
席に座り、ドリンクに口をつける。
甘さが少し強い。
周りの客は気づかない。
誰も振り向かない。
端末の画面には、
いつものハンドルネーム。
たまたま含まれていた音。
それだけで、今日は一杯多い。
飲み終えたあと、
空になったグラスを見つめる。
名前は変わらない。
でも、店を出る足取りが、
ほんの少しだけ軽かった。