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第3話 ハンアサ(ハンドル・アサインメント)の仕事机
朝の室内は静かで、空調の音だけが続いている。
机の上には端末と、薄い紙。
紙には、候補の文字が並んでいる。
消して、書いて、
また消す。
画面の向こうに、依頼者の空欄がある。
名前が入る場所。
端末を閉じ、息を整える。
椅子を少し引き、姿勢を正す。
再び画面を開く。
入力欄に、ひとつの綴りを置く。
音に耳を澄ます。
頭の中で、呼ばれる場面を並べる。
駅で。
画面で。
誰かの口から。
指が止まる。
別の案を出す。
今度は短い。
軽すぎる気がする。
紙を裏返す。
消し跡が重なっている。
机の端に置いたカップに触れ、
冷えた感触で現実に戻る。
画面の警告が、静かに点る。
確定前。
もう一度だけ、呼ぶ。
声に出さず、胸の内で。
悪くない。
でも、良すぎもしない。
確定の前で、指が止まる。
この一行が、
誰かの一日になる。
端末を少しだけ引き寄せ、
深く息を吸う。
決める。
指が押され、画面が切り替わる。
部屋は変わらない。
音も、光も。
机の上に残ったのは、
確定された名前と、
消せなくなった責任だけだった。