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放課後の教室。
空気は騒がしく、ざわざわとした会話が飛び交っていた。
男子生徒:「なぁなぁ、今日の体育の謙杜くん、見た? ひとりで張り切ってシュート外しまくってて爆笑やったんやけどw」
女子生徒:「しかも“見て見て!”ってうるさかったし。マジで空気読まんやつって感じ〜」
それを後ろの席で聞いていた謙杜は、無理に笑顔を浮かべていた。
謙杜:(冗談やろ? いつもみたいに、からかってるだけやろ?)
そう思おうとしても、胸の奥は冷たくなっていた。
駿佑:「お疲れ〜!」
教室を出ると、すぐに駿佑が駆け寄ってきた。
駿佑:「今日の体育さ、謙杜めっちゃ頑張ってたやん。あの三段ジャンプのとこ、普通に感心したわ!」
謙杜:「えへへ、マジで? 俺、飛びながら死ぬかと思ったわ〜!」
明るく返しながらも、心の中では(そう言ってくれるの、駿佑だけや)と思っていた。
――帰り道。
シェアハウスに戻ると、リビングでは和也が夕飯の準備をしていた。
和也:「謙杜、みっちー、おかえり〜。今日ご飯手伝ってくれる?」
2人:「うん、まかせてや!」
包丁を握るその手は、わずかに震えていた。
でも、誰も気づかない。謙杜が、“元気キャラ”を演じ続けているから。
夕飯中も、謙杜は皆を笑わせ続けた。
謙杜:「今日な、先生の頭の上にハエ止まってたんやけど、本人全然気づかんかってん! 誰か“ハエ師匠”ってあだ名つけてたわ!」
大吾:「ぶはっ、それ聞いてるだけで想像できるわ!」
謙杜:「それで爆笑してたら、“騒がしい”って怒られてん〜!ヒドない?」
笑いが起きる。でも――
その笑顔の裏で、謙杜は心の中で叫んでいた。
謙杜:(誰か気づいて。本当は、笑ってる場合じゃないんや)
夜。
自室に戻った謙杜は、またメモ帳を開いた。
「なんで俺だけ、こんなに気ぃ使わなあかんのやろ」
「本当のこと言うたら、みんな引くやろ?」
「“俺ら家族やん”って言うたくせに、誰もホンマの俺なんか見てへんやん」
涙が落ちて、インクがにじんだ。
そこに、ふとスマホが震えた。
LINEの通知。真理亜からだった。
【今日の晩ごはん、めっちゃ美味しかった!謙杜くん、ありがとう😊】
【無理しすぎたらあかんよ。ちゃんと休んでな】
……それだけで、また涙が止まらなくなった。
謙杜:(なんでこの人は、そんなとこまで見てくれるんやろ……俺、ほんまは……誰かに助けてほしかったんかもしれん)
でも――
口に出す勇気は、まだなかった。
謙杜:「大丈夫やから。俺、まだ大丈夫やから」
そう呟いて、笑う自分を、鏡に映してみせた。
でもその笑顔は、どこかで崩れる寸前だった。