テラーノベル
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第3話「ノスタルジー・ゲームセンター界隈」
【第1章:地下へ降りる階段とネオン】
渋谷の喧騒から逃れるように、二人は地下へと続く薄暗い階段を下りていた。
壁には剥がれかけたレトロゲームのポスター。階段の底から漏れ聞こえてくるのは、ピコピコという電子音と、重低音のゲームBGMだ。
「ここがアオイの言う『界隈』なのか……?」
ツトムは手すりを掴みながら、少し眉をひそめた。
「そうだよ! 昭和とか平成初期のレトロゲームセンター!」
アオイは段差を軽やかに跳び下りながら振り返る。首から下げた一眼レフカメラが胸元で跳ねた。
「最近はデジタルネイティブなZ世代の間で、この『ダサかわいくて薄暗いエモさ』が空前のトレンドなの。ほら見て!」
ドアを開けると、そこは暗がりの中に鮮やかなピンクや青のネオンサインが浮かび上がる別世界だった。
最新の超高画質VRゲームではなく、どこかドット絵の残像を感じさせる旧世代の筐体がズラリと並んでいる。筐体の前に座り込んでいるのは、Y2Kファッションに身を包んだ若者たちや、平成レトロな雰囲気を楽しむ外国人観光客だ。
【第2章:13年ぶりの再会とMii】
アオイがツトムの手を引いて奥へと進む。目指した先には、一角だけ人集りができている特設コーナーがあった。
「あった! これこれ!」
アオイが指差したのは、大型モニターに映し出された見覚えのあるポップな画面。
「13年ぶりに新作が出た『トモダチコレクション』の体験ブース!」
「トモコレ……? 昔、DSとかで流行ったやつか?」
「そう! 今のクオリティで蘇ったの! 似顔絵アバターの『Mii』を作って、島で生活させるゲーム。この『あえてのシンプルさ』が今、TikTokでめちゃくちゃバズってるんだよ!」
アオイはコントローラーを握り締めると、ニシシと笑った。
「ツトムくん、まず君のMiiを作るよ! 髪型は……ビーニー帽で、目はちょっと眠たそうな感じにして……」
「勝手に作るなよ」と言いつつも、ツトムは画面の中で出来上がっていく自分に似たキャラクターを見つめた。完璧なリアルCGではない、どこかコミカルで記号化された不完全なキャラクター。だが不思議と、自分らしい「空気感」が捉えられている気がした。
「できた! ほら、ツトムMii! 次は私のMiiね!」
アオイが手際よく自分そっくりの笑顔のMiiを作り上げる。画面上の中で、二人のMiiが出会い、ぎこちなくお辞儀を交わした。
『はじめまして! よろしくね!』
画面から流れる合成音声に、アオイが大爆発を起こすように笑った。
「あはは! 見てこれ! なんかシュールで超かわいい!」
その無邪気な笑顔につられるように、ツトムの唇からも「ふっ」と小さな笑いが漏れた。
【第3章:不完全だから愛おしい】
ゲームセンターの片隅にあるベンチ。アオイが缶コーラを飲みながら、ゲーム画面の写真をカメラで撮っている。
ツトムはリュックからスケッチブックを取り出し、静かに鉛筆を走らせ始めた。
描き出すのは、ゲーム画面ではない。
暗闇の中でネオンの光を浴びながら、一眼レフを構えて夢中で写真を撮っているアオイの横顔だ。
サーッ、サッ……。
「ねぇツトムくん、また描いてるの?」
アオイが撮影の手を止め、ツトムの隣に身を乗り出してきた。
「……あ」
見られたことに気づき、ツトムが咄嗟にスケッチブックを隠そうとする。しかし、アオイの指先が優しくスケッチブックの端を押さえた。
「隠さなくていいじゃん。……あ、これ、私?」
アオイの瞳がキュッと見開かれる。
スケッチブックの上には、ネオンの複雑な光と影、そして少しだけ照れくさそうに笑うアオイの姿が、鉛筆の濃淡だけで見事に表現されていた。
「AIの画像生成なら、もっと正確にネオンの色を再現できると思う」
ツトムはスケッチブックを見つめたまま、ポツリと言葉を紡いだ。
「でも……このゲームセンターの匂いとか、お前がさっき大笑いした声とか、そういうものは、AIには描けない。俺はお前のその瞬間を描きたかった」
【第4章:共鳴する世界】
アオイはしばらくの間、黙ってツトムの絵を見つめていた。
いつも賑やかな彼女が黙り込むと、ゲームセンターの電子音がやけに大きく聞こえる。
「……ツトムくん」
アオイがゆっくりと顔を上げた。その瞳には、ネオンの光がキラキラと反射している。
「やっぱりツトムくんの絵、最高だよ」
アオイはカメラを構え、ツトムが描いた自分のスケッチと、照れくさそうに顔を背けるツトム自身を、同じ画角に収めた。
パシャッ!
「今の写真、すっごく良い『共感』が詰まってる。AIの完璧な絵なんかより、ずっとずっと愛おしいよ」
「……勝手に撮るなと言ってるだろ」
ツトムはビーニー帽を目深にかぶり直したが、その耳元が少しだけ赤くなっているのを、アオイは見逃さなかった。
地下のレトロなゲームセンター。
電子音とネオンの光の中で、二人の「ささいな冒険」は、少しずつ、しかし確かに深まっていく。
(第3話・おわり)
コメント
1件
## 感想 第3話、めっちゃ良かった!! 地下のゲームセンターのレトロでエモい雰囲気が映像のように浮かんできたし、トモコレのMii作るシーンで笑い合う二人の距離感が自然でほっこりした。何よりツトムが「AIには描けない」って言ってアオイの笑った瞬間を鉛筆で描くシーン、グッときたわ……。完璧じゃないからこそ愛おしいっていうテーマが、この作品の空気感にピッタリで刺さった。二人の関係性がじわじわ深まってく感じ、続きが気になる🔥
花月夜れん
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