テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
162
さくらさく🌸
80
酢酸🐣♡🐤
14,836
#めめこじ
junp_
707
iw、side
正直、俺は自分でも性格が悪いと思う。
だって今、目の前でちょっと不機嫌そうにしてる阿部を見て、嬉しくなってるから。
「……阿部、どうした?」
「別に?」
出た。
阿部の「別に」は、だいたい別にじゃない。
俺がソファに座ると、阿部は隣にいるくせに、いつもより少しだけ距離を空けた。
……何、それ。
いつもだったら、なんだかんだ理由をつけてくっついてくるくせに。
「阿部」
「なに?」
「こっち向いて」
「向いてるじゃん」
「ちゃんと」
阿部が渋々こっちを向く。
目が合った瞬間、俺は思わず笑いそうになった。
……あー、これ。
絶対、妬いてる。
今日の収録終わり、俺はふっかと話してた。
別に大した話じゃない。次の仕事のこととか、筋トレのこととか。
ただ、そのとき。
阿部が少し離れたところから、こっちを見てたのを俺は知ってる。
目が合ったら、すぐ逸らされたけど。
で、帰ってきてからずっとこれ。
「……あべ」
「だから、なに?」
「俺、なんかした?」
「してないよ」
「じゃあ、なんでそんな離れてんの?」
「……普通ですけど」
普通なわけあるか。
俺は少しだけ身体を寄せた。
阿部は、ほんの少しだけ反対側に逃げた。
……かわい。
いや、待て。
ここで笑ったら絶対怒られる。
「……もしかしてさ」
「なに」
「今日、俺がふっかと話してたの、気になった?」
「…………は?」
あ、図星。
阿部の耳が、みるみる赤くなっていく。
「ち、違うし!」
「まだ何も言ってないけど」
「照が勝手に変なこと言うからでしょ!」
「うん。で、妬いてんの?」
「妬いてない!!」
即答。
……はい、かわいい。
俺はとうとう耐えきれず、声を出して笑った。
「っはは、阿部、顔赤い」
「笑うな!!」
「ごめん、ごめん(笑)」
「絶対思ってない!」
うん。
全然思ってない。
だって、嬉しいから。
「……もういい。照なんか知らない」
阿部がぷいっと顔を背けた。
あ、やば。
これは、ちょっとやりすぎたかもしれない。
「えー、阿部?」
「なに」
「怒った?」
「怒ってない」
「ほんと?」
「ほんと」
絶対、怒ってる。
しかも、さっきまでなら俺がちょっと近づけば逃げるだけだったのに、今は明らかに口数が減ってる。
……あー、やばい。
かわいい。
いや、ほんとに。
自分でも性格が悪いと思う。
好きな人が自分に嫉妬してくれるのって、こんなに嬉しいんだな。
普段の阿部は、わりと余裕がある。
俺が誰かと話してても、にこにこしてるし。
俺がメンバーにいじられてても、一緒になって笑ってるし。
なんなら俺より先に、誰かの肩を抱いたりする。
だから、こういう顔は珍しい。
俺のことで機嫌が悪くなって。
俺のことで拗ねて。
俺のことで、耳まで赤くなってる。
……俺、相当愛されてんじゃん。
「阿部」
「……なに」
「こっち向いてよ」
「やだ」
「え、やだなの?」
「やだ」
うわ。
即答された。
思わず笑いそうになるのをこらえて、俺は阿部の肩にそっと頭を乗せた。
「……亮平」
「っ、ちょっと!」
あ、名前で呼んだら反応した。
肩がぴくって跳ねたの、ちゃんとわかった。
「なに、照」
「んー?」
「重い」
「うそ。全然重くないでしょ」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあ、どういう問題?」
「……っ、もう!」
阿部が俺の頭を押し返そうとする。
でも、本気じゃない。
力を入れれば簡単に離れられるのに、結局、俺の頭は阿部の肩に乗ったままだった。
……あー。
もう、ほんとに。
「亮平、かわいすぎ」
「は!?」
今度こそ、阿部が勢いよくこっちを向いた。
「ちょっと待って!? なんでそうなるの!?」
「え、だってかわいいじゃん」
「どこが!?」
「全部?」
「質問に答えて!!」
「妬いてくれるとこ」
言った瞬間、阿部が黙った。
さっきまであんなに騒いでたのに。
目をぱちぱちさせて、それから、ゆっくり視線を落とす。
……あ。
もしかして、今のは。
「……妬いてないってば」
小さい声。
さっきの勢いはどこへやら。
「うん」
「……ほんとに、別に、そういうんじゃないし」
「うんうん」
「ふっかと仲いいのなんて、知ってるし」
「うん」
「俺だって、別に、誰と話してても気にしないし……」
「うん」
「……だから、笑わないでよ」
最後の一言が、あまりにも小さかった。
俺は、もう笑えなかった。
いや、正確には。
笑うのをやめた。
だって。
こんな顔するんだ。
俺がふっかと話してただけで、こんなに気にして。
気にしてないふりをして。
それでも、俺に気づいてほしくて。
……あー、もう。
好きだな。
どうしようもなく。
「亮平」
今度は、ちゃんと名前を呼んだ。
「……なに」
「こっち、おいで」
「……やだ」
「なんで?」
「……照が、からかうから」
その言葉に、胸の奥がきゅっとなった。
ああ、そっか。
俺が嬉しくて、面白くて、つい調子に乗って。
この人がどんな気持ちでいたか、ちゃんと考えてなかった。
「……ごめん」
阿部が、少しだけ顔を上げた。
「え?」
「からかいすぎた」
「……」
「ごめんな、亮平」
そう言って、俺は両手を広げた。
「おいで?」
阿部はしばらく俺を見ていた。
疑うような目。
まだちょっと拗ねた顔。
それでも、数秒後。
「……今回だけだからね」
そう言って、ゆっくり俺の胸に寄ってきた。
……いや。
かわいすぎるだろ。
抱きしめた瞬間、阿部の腕が俺の背中に回る。
いつもより、少しだけ強く。
俺はその背中をゆっくり撫でた。
「……亮平」
「なに」
「俺、嬉しかったんだよ」
「……何が?」
「妬いてくれたの」
腕の中で、阿部の身体が固まった。
「……っ、だから、妬いてない!」
「あはは、ごめんって」
「もう!!」
また怒られた。
でも今度は、俺の胸に顔を埋めたまま。
……あー。
これ、たぶん。
本人は隠せてるつもりなんだろうな。
「……ねえ、亮平」
「……なに」
「俺のこと、好き?」
聞いた瞬間、阿部が顔を上げた。
「……は?」
「いや、なんか聞きたくなった」
「……好きじゃなかったら、こんなことしてないでしょ」
「こんなことって?」
「……っ、抱きしめられてること!」
「そっか」
「そうだよ!」
「じゃあ、俺のこと大好き?」
「調子乗んな!!」
あ、戻った。
いつもの阿部だ。
俺は笑いながら、阿部の額に自分の額をこつんと合わせた。
「俺は大好きだけど」
「…………」
「亮平は?」
阿部は、じっと俺を見ていた。
それから、ほんの少しだけ唇を尖らせて。
「……好きだよ」
「うん」
「……めちゃくちゃ、好き」
…………。
………………。
え。
ちょっと待って。
それは、聞いてない。
「……亮平?」
「なに」
「今の、もう一回言って」
「やだ」
「え、なんで!?」
「照が調子乗るから!」
「いや、乗るでしょ! 今のは乗るって!」
思わず声が大きくなった。
だって、いつもならこういうことを言うのは俺のほうだ。
阿部は照れながらも、結局は笑って流す。
なのに今日は。
俺の腕の中で、少しだけ赤くなった顔を隠しながら。
「……照が、好きなの」
なんて。
……無理。
ほんとに無理。
俺は阿部をぎゅっと抱きしめた。
「っ、ちょ、照!?」
「……むり」
「なにが!?」
「好きすぎる」
「…………っ!」
今度は阿部が完全に黙った。
腕の中で、耳まで真っ赤になっている。
俺はその耳元に顔を寄せて、わざと小さな声で囁いた。
「……ねえ、亮平」
「……な、なに」
「次、ふっかと話してたら、また妬いてくれる?」
「はぁ!?!?」
あ。
やばい。
また怒らせた。
「照!!」
「ごめんごめん、冗談!」
「絶対うそ!!」
「うん、ちょっとだけ本気」
「もーーー!!」
阿部が俺の胸をぽかぽか叩く。
痛くもなんともない。
むしろ、嬉しい。
だって。
こんなふうに怒ってくれるのも。
俺のことでいっぱいになってくれるのも。
最後には結局、俺の腕の中に戻ってきてくれるのも。
全部、俺だけの特権みたいで。
……ああ。
やっぱり、俺は性格が悪い。
「……でもさ、亮平」
「……なに!」
「妬いたら、ちゃんと言ってよ」
阿部の手が止まった。
「……なんで?」
「嬉しいから」
「…………ばか」
「うん」
「……ほんと、ばか」
そう言いながら、阿部はまた俺の胸に顔を埋めた。
そして。
「……照も、妬いてよ」
ぽつりと。
聞き逃しそうなくらい、小さな声で。
「……俺ばっかり、やなの」
…………。
ああ。
もう。
この人、ほんとに。
俺は阿部の頭を撫でて、額にキスを落とした。
「……妬くよ」
「……ほんと?」
「うん。亮平が誰かに甘えてたら、普通にやだし」
「……ふふ」
「俺以外に、そんなかわいい顔しないでほしいし」
「……っ、なにそれ」
「本音」
阿部が笑った。
さっきまでの不機嫌なんて、もうどこにもない。
俺の服をきゅっと掴んで、幸せそうに目を細めてる。
……あー。
結局、こうなるんだよな。
俺がちょっとからかって。
阿部が拗ねて。
俺が謝って。
最後には、二人でくっついてる。
いつものこと。
でも、今日は少しだけ違う。
「……亮平」
「ん?」
「大好き」
「……うん」
「ほんとに、大好き」
「……わかったってば」
「いや、まだ言い足りない」
「……っ、もう!」
また赤くなる。
俺はそんな阿部を抱きしめながら、こっそり笑った。
……明日も、ちょっとくらい妬いてくれないかな。
なんて。
そんなことを考えてしまうくらいには。
俺は、阿部亮平に夢中だった。
コメント
2件