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顔の赤みを隠そうと、「ちょっとメイクを直しに行ってきますね」と、席を立った。
レストルームの鏡に顔を映して、落ちた口紅を塗り直し、ファンデーションの浮きを押さえていると、目の前に彼の顔が映し出されたようにも感じてドキリとする。
もう貴仁さんがイケメンすぎて、目の毒なんだけど……。
あんなにカッコいい人って、見たことがないくらいでとも感じていると、彼と私は釣り合っているのかなという思いが、ふと頭をもたげた。
一度浮かぶと、まるで黒い雲のようにモヤモヤと頭に広がっていく不穏な思いを抱え、席へ戻って来ると、彼はもう支払いを済ませていたらしく、ちょうど領収証とカードをしまおうとしているところだった。
そのちらりと目に入った額に、びっくりさせられる。桁が違って……十万を優に超える金額に驚きが隠せない。確かにワインはレアな物のようだったから、もしかして高いのかもとは思っていたけれど、まさかこんなにだなんて……。
それにもう一つ驚いてしまったのは、彼のカードだった。あれは、最上位ランクのブラックカード、だよね……?
プラチナのさらに上のカードなんて、さすがに目にしたこともなくて都市伝説級にすら感じていたけれど、それを実際に持っているだなんて、やっぱり彼は、あのKOOGAのトップなんだということを痛感させられた。
食事を終えて外に出ると、七時半を回った頃だった。
帰るにはまだ少し早い時間にも思えたけれど、自分から誘いかけるのもなんとなく気が引けたのと、果たして私は貴仁さんと釣り合っていてという思いも手伝って、何も言い出せずに、彼の後ろをややのろのろとした足取りで歩いていた。
すると、少し先を歩いていた彼が振り返って、
「この後は、どこかに寄って行かないか?」
そう声をかけてきた。
「そう、ですね……」
曖昧に返事をして、声を詰まらせる。
「どうした? もし何か私に言いたいことがあるのなら、話してほしい」
落ち込み気味な私の気持ちを察して、そう優しげに言葉をかけてくれるのに、
「……すいません、気をつかわせてしまって。……ええーと、私ももうちょっと飲みたい気分なので、飲んでもし話せたら……」
わだかまりを拭えないまま、やや言葉を濁して伝えた。
「そうかなら、私の見知ったバーにでも行こうか?」
「はい……」と、小さく頷いて返すと、
「ほら、そんな後ろにいないで、もっとそばへ……」
私を思いやってくれているのだろう、ためらいがちに片手が差し出されて、どぎまぎしながら人差し指の一本だけをちょこっと掴んだ。
「……もっと離れないよう、こうして握っているといい」
後ろ手に、指先を掴んだ手がつと引かれ、うつむいていた顔を上げると、耳の縁を仄かに赤く染まらせた彼の、大きくて温かな手の平に包み込むように握られた。