「は? ごめん、もう一回言って? 耳詰まってたかも」
「……だーかーら、俺と一緒に星流祭まわらねえかって言ってんだよ!」
「え?なんで、私とアルベドが?」
頭にはハテナマークが幾つも浮かんでいたことだろう。
そもそもにアルベドは私に惚れてないはずなのだ。なのに何故、攻略キャラである彼から誘われているのか。
システム上こちらから誘う形だと思っていたため、これは以外であった。確かに、あり得ない話ではない。だが、一緒にまわらないかと誘ってきたリースは中身が元彼であったために、私を誘ってきたのであって、他の攻略キャラから誘われるなんて思っていなかった。
ルクスとルフレに関しては何も言ってないのに無理だって手紙が来たのに。
「え、でも昨日自分から誘わないって言ってたじゃん」
「気が変わったんだよ」
「何で」
「気が変わったから」
と、どうやら気が変わった理由については教えてくれないようで、それ以上は聞くことが出来なかった。
まあ、理由なんてなんでもいいんだけどね。
でも、どうして今更になって……と、考えていると私はハッとした。
まさか、好感度が上がりすぎて私の事が好きになってしまったとか!? と、思ったけれどそれは無いと思い直す。
だって、彼の好感度は34。きっとそれは好意である。恋愛感情じゃないだろう。このゲームの好感度の基準というのがよく分からないから実際の所如何なのかは不明である。
リースのような90に近い好感度ならまだしも。50にも満たないんじゃ、期待は薄い。
あったとしても、その人を攻略するかは別になるし……
(って待って、星流祭まで後何日よ!?)
確か、この間六、五日ぐらいでとかいって焦ってブライトに心配されて、その次の日双子のプレゼントを買って、そうして一日アルベドといた訳だから……
「後三日!?」
「うわっ……、吃驚した。何急に大きな声出してんだよ」
突然、大きな声で叫んだ私に驚いたのかアルベドがビクッと肩を揺らしていた。それに私は謝りつつも頭の中ではどうするべきかと考えていた。
別に一緒にまわりたくないわけではない。寧ろ、嬉しいぐらいだ。
だって私から誘うのは嫌だし、ハードル高いし。
でも、アルベドである。
私の超苦手な攻略キャラ、アルベドである。
確かに、ここ数日で距離は縮まったし、他の攻略キャラと引けを取らないぐらいに好感度は上がった。だから、いきなり死亡エンドにはならないはずだ。
だけども、五日間一緒にまわるとなると別である。もう今の時点で一日過ごしているわけだから約一週間。
もしかしたら、星流祭を途中までまわって後は休めるかも知れないけれど、イベントの詳細が結構大雑把なためよく分からない。
私は、ちらりとアルベドを見る。すると、彼は視線に気づいたのか此方を見返してきた。
見た目だけなら好みである。リース様には及ばないけど。それで性格さえ、まともであれば完璧だったのだが……
いきなりヴンッと音を立てて現われたウィンドウに驚きつつも見慣れた【アルベドと星流祭をまわりますか?】の文字を見て、私は下唇を噛む。
(このウィンドウ腹立つ……)
まるで私を急かすかのように、何度も出てくるウィンドウ。
でも、メインイベントだろうし仕方ないと言えば仕方ないのだが……私に、誰ともまわらないという選択肢を与えてくれない以上、これは強制的に決定事項なのだ。
そんな風に、私がウィンドウとにらめっこしているとアルベドが突然おい。と声をかけてくるものだから、私は驚いてしまって目の前のイエスボタンを誤って押してしまった。
(まっ……え、待って待って待って!?)
ウィンドウは無情にも【アルベドと星流祭をまわろう!】という文字に変わり、ヴンッとという音を立てて再び消えてしまった。私から逃げるように。
「う、嘘でしょ……」
私は、あまりの衝撃に言葉を失い膝から崩れ落ちた。
今のは完全に事故だった。押した感覚だってなかった。なのに……ちょっと指先がイエスに触れただけ。そう、事故……でも、もう取り返しはつかなくて。
(ど、如何しろって言うのよッ!)
思わず床を叩きつける。痛い。
いや、そりゃそうだ。だって床を叩き付けたんだから。でも、私はそれを気にする余裕はなかった。
私は、慌てて立ち上がり現われた星流祭のイベントの詳細に目を通す。クリア条件は【星流祭の最終日の花火をアルベドと見よう!好感度+15%】と書かれている。
確かに魅力的なのだ。報酬は。
「エトワール、如何したんだよ」
「どうしたもこうしたもないわよッ!」
「お、おう……?」
私は、アルベドの言葉にそう言い返すと、彼に向かってびっと指を指す。そして、そのまま私は叫んだ。
「何で、私がアンタなんかと一緒にまわらないといけないのよ! どうせなら、リース様が良かった!」
「リース……って、あの冷酷無慈悲なこの帝国の皇太子か?」
「そうよ!ああ、でもリースの中身は……」
と、自分で言った言葉を途中で止めて、口をつぐむ。危ない、危うく自分の首を絞めるところだった。
アルベドは私の言葉が気になったみたいだが、それ以上は追求してくることなかったので私は話題をすり替えることにした。と言っても、もう彼と星流祭をまわることは確定だろうし。
そう思ってアルベドを見ていると、彼は不満ありげに眉間に皺を寄せていた。
「俺とまわるの、そんなに嫌かよ」
「別に嫌っていってるわけじゃないし、そういうことじゃなくて……」
「どうせ、俺の事何て嫌いだもんな、お前」
「だからッ! そういうことじゃないって――――」
何処か悲しそうな、寂しそうなかおをするアルベドが、どうしてそんな屁理屈みたいなこと言うのだろうかと私は彼に手を伸ばした瞬間パリンッといった音が部屋中に響き渡り、右手首にはめられていた光の枷が光の粒子となって消えた。
「……あ」
「おっ、もうそんな経ったのか」
私の手首をまじまじと見ていたアルベドは、そう呟くと私をちらりと見て口を開く。
光の枷が外れたって言うことはもう丸一日経ったと言うことである。長いようで短かったアルベドとの一日が終わったと云うこと、つまりここにいる理由がなくなったと言うことである。
私は良かったと胸をなで下ろしたが、アルベドは少し名残惜しそうに自分の手首を見つめていた。
「良かったじゃん。これで、魔力は使い放題でしょ」
「あ、ああ。まあな」
「そういえば、昨日壁を蹴ってあんな軽々屋根の上走ってたけどあれって魔法? それとも、アルベド自身の身体能力が高いから?」
と、私は昨日聞けなかった疑問を彼にぶつけてみた。
確かブライトは水属性の魔法に特化しており、ルクスは炎でゲームの記憶でおぼろげだがルフレは土だった気がする。聖女である私は勿論光だけど、アルベドは何の魔法に特化しているのだろうか。闇魔法ではあるけれど、その中でも別れているはずだと。
そうアルベドの答えを待っていると、彼は少し自慢げに胸をはり何だと思う? と質問を質問で返してきた。
外したら、笑ってやるとでも言うような嘲笑的な笑みを浮べて。
「……木……、違うな、風属性の魔法?」
「正解だ。よく分かったな」
アルベドの得意気な顔を見て、私はふんと鼻を鳴らす。といっても、当てずっぽうだっため当たってて良かったと内心ほっとしていた。
確かに、アルベドの身体能力は攻略キャラの中でも群を抜いて高い。だが、幾ら高いからと言って壁を蹴ったり屋根の上をバランスを崩さず走るのには無理があると思った。そこで、風属性の魔法を付与することで、身体を軽くさせ動きやすくしているのではないかと考えたのだ。
分かったところで何だと言う話になるが、種明かしをされ今度ブライトにでも教えて貰おうと思った。何かと便利そうだし。
その後も、アルベドにいくつか聞きたいことがあり私は彼の方を向いて口を開いたがそれを遮るようにドアをノックする音が聞えた。
「ファナーリクです。お坊ちゃま、聖女様の転移魔法の準備が整いました」
「そうか」
「えっ、転移魔法って昨日アンタ一人で使ってたじゃない。何も、準備なんて……」
「ああ、そっか、お前気づいてなかったのか。転移魔法は、高度な魔法だからな、自分自身転移させるのですら相当な魔力を使うんだ。それに、一人で二人となると魔力が枯渇する可能性だってある」
「じゃ、じゃあ」
「お前の魔力を借りたんだよ。お前の有り余るほどの魔力をな」
と、アルベドは悪びれた様子もなくそう言うと不敵に笑う。
私は彼の言っていることが分からなかったが、簡単に言えば私の魔力を吸い取って自分の魔力に置き換えたと言うことだろうか。光魔法の魔道士では出来ない芸当だなあと内心思いつつも、何勝手に人の大切な魔力を借りているんだと怒りたくなった。
でも、あの時そうするしかなかったんだろうと思うと言い返したくても言い返せない。
そうやって、私が口を閉じていると彼は私の手を取ってほら行くぞ。と言うように歩き出す。そうして連れてこられた暗い部屋にはローブを羽織った魔道士らしき者達が魔方陣を画き何やら呟いていた。あの魔方陣のところまで行けば転移できるはずだからと、アルベドは指さし私の背中をトンッと押した。
「ああ、そうだエトワール」
「何よ、何か言い忘れたことでもあった?」
「星流祭の最終日、迎えに行ってやるよ。だから、待ってろ。何処にいても迎えに行ってやる」
「……はあ、分かった」
アルベドは、じゃあ、また。楽しみにしてるからな。と笑い、私は翠色の光りに包まれ転移魔法によって聖女殿ヘと送り返された。
聖女殿はとくに変わった様子もなく、いつも通りで少しだけ安心したが、これからどうすればいいのかと頭を悩ませる。取り敢えず、ただいま帰りましたと伝えようと一歩足を踏み出したとき後ろに気配を感じ私はとっさに振返った。
名前を呼ばれたような気がしたのだ。
そうして、振返ればそこには、眩い金髪にルビーの瞳を揺らし息を切らしたリースの姿があったのだ。
でも、姿形はリースなのに何故か私の目には、その彼が現実の遥輝の姿に見えて私は思わず彼の名前を口にする。
「……遥輝?」
「エトワール、エトワールッ! 心配したんだぞ」
と、私は抵抗する暇もなくいつの間にか彼に強く抱きしめられていた。
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