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「ね、あきら。千尋じゃないけどさ? 地球滅亡の時、私はきっと子供たちを抱き締めてるんだ。で、大和は子供たちごと私を抱き締めてくれると思う。それはとても幸せなことだけど、自分を抱き締めてくれる人を抱き締め返せるのも、とても幸せなことだと思うよ? 私は、ほら、子供たちを離せないから、大和を抱き締めてあげられないから」

そうか。

子供がいたら、龍也を抱き締めてあげられないのか。

「それでも、どうしても龍也一人じゃ物足りなくなったら、私が産んであげるよ」

「え?」

さなえが顔を上げる。

「アメリカでもどこでも行って、代理母してあげる。あきら、卵巣は残ってるんでしょ?」

そう言われて、笑えた。それから、泣けた。

自分が何にこだわって、何を恐れていたのか、わからなくなった。

「あきらと龍也の子供を私が産むの。もれなく大和もセットで、生まれた子供には母親と父親が二人ずついるってわけ。あきらが龍也と別れたくなっても、別れらんないよね。子供の親権争い、面倒臭そうだし。産んだ私にも権利ありそうじゃない?」

「随分楽しそうにすごいこと言うね?」

「だって、楽しいもん。それに、そんな日は来ないってわかってるから」

「なに、それ」

さなえは穏やかに微笑む。麦茶を二口ほど飲んで、震えたスマホに持ち替えた。

「――ったく……」と、呆れ顔。

「……?」

「大和。今から来るって」

「仕事終わったの?」

「終わったんだか、終わらせたんだか」

その言葉とは裏腹に、表情は嬉しそう。

さなえはスマホを操作し、耳に当てた。

「もしもし? 来るなら自分のお昼ご飯買って来てね? ……うん。あきらがパン買って来てくれたから……、うん、……うん、そうだね。……うん、気を付けてね」

さなえの電話中、私も自分のスマホをチェックする。メッセージが二件。バッグの中に入れっ放しで気づかなかった。

どちらも龍也からだった。

『おはよう。今日から休みだろ? 実家に帰るのか?』

『おーい! まだ寝てる?』

私はいつものように手短に返信した。

『ごめん、出かけてて気づかなかった』

「――そういえば、大和が陸さんから聞いたって言ってたけど、あきら付き合ってる人がいるの?」

電話を終えたさなえが、言った。

「いた、かな?」

「うん――」

私は勇伸さんのことを簡潔に話した。離しながら、勇伸さんと別れたことを麻衣に報告していないことを思い出し、あとで知らせようと思った。

「――そっか。大和には、恋人とは別れたことだけ言っとくね?」

「……全部、言ってもいいよ?」

無理しているわけじゃなく、そう思えた。

隠していた理由が、今はもうわからない。

「そうだね。言っておかないと、いざっていう時に代理母出来ないもんね」

「本気でそんなこと思ってないくせに」

「本気だよ? それであきらと龍也が幸せになれるなら、何人でも産んであげる」

現実的ではないけれど、その気持ちが嬉しかった。

「ありがとう」

十五分ほどして大和さんが到着し、私たちは三人で昼ご飯を食べた。

さなえはこの場で、大和さんに私の身体のことを話す気はないようで、助かった。

さすがに、大和さんの前で泣くのも、大和さんに泣かれるのも気まずい。

私は二人に、千尋のことは心配いらないと伝えた。

「あきらも千尋も、男慣れしてるようで慣れてなさすぎだろ」と、大和さんが笑った。

十四時少し前に、私はさなえの実家を出た。駅まで送ってもらう車中で、私は大和さんに心配させたことを謝った。

「なんでそこまでこじれてんのか知らないけどさ――」と、大和さんが運転しながら言った。

「――龍也の気持ちが信じられないとかいうんだったら、悩むだけ無駄だぞ?」

「無駄って?」

「大学時代、俺、さなえに告られて断ったろ?」

「うん。あの時はまだ彼女がいたんでしょ?」

けれど、さなえは諦めず、大和さんは一カ月ほどで年上の彼女とはキッパリ別れ、さなえに告白した。

「そ。さなえのことは気になってたけど、彼女より好きかっつーと迷いがあってさ。けど、龍也に持ってかれるんじゃねーかって思ったら、迷いなんか吹っ飛んだんだよ」

「龍也に? さなえを?」

「そ。俺、龍也が見てんのはさなえだと思ってたんだよ。気がついたら龍也がキョロキョロしてたり、ボーッとしてたりしてさ。そのうち、気づいたんだ。龍也はいっつもさなえを探して、さなえを見つめてるって。で、焦ってさなえと付き合い始めたら、龍也にあっさり祝福されてさ。拍子抜けしてたら陸に言われたんだよ。『龍也が惚れてんのは、あきらだぞ』って」

「え?」

「あきらとさなえ、ずっと一緒に居たろ? で、俺はさなえばっか見てたしさ、てっきり龍也が見てんのもさなえだと思ったんだよ。『お前がさなえしか見えてないように、龍也はあきらしか見てないぞ? つーか、それに気付いてないのお前とあきらくらいだけどな』とか陸にからかわれて、恥ずかしいのなんのって……」と、大和さんが苦笑いする。

「そう……だ……った?」

「そ。だから! 何が言いたいかっつーと――」

気づくと既に駅前で、大和さんは駅の入り口脇に停車させた。

シフトレバーをPに入れると、ドアロックが解除された。

「――あん時から、龍也はお前しか見てないっつーことだ。半端な気持ちじゃねーよ」

「大和さん……」

「それに、万が一に、龍也があきらを泣かせたりしたら、俺と陸でボコボコにしてやるから、任せろ」

「……麻衣じゃないんだから――」

「――なんでだよ!? 俺と陸には、麻衣もあきらも大事な仲間だ。いくら龍也でもお前を泣かせるようなことがあったら、許さねーよ?」

鼻の奥がツンとして、それに気付かない振りをしておどけて見せた。

「やめてよ。そんなカッコいいこと言われたら。惚れちゃうじゃない」

カチッと、シートベルト外す。

「マジか! けど、俺はさなえのだからなぁ。俺の次にカッコいい龍也で我慢してくれ」

カハハハハッと、カッコ良さも半減してしまうような笑い。

「はいはい」

私は車を降り、ドアを閉める前に身を屈めて大和さんにお礼を言った。

「送ってくれてありがとう。さなえにも話を聞いてくれてありがとうって、私からのキスを代わりに届けておいて」

「任せろ」

大和さんはニンマリと笑い、私がドアを閉めるとさっさと走り去った。

さっき、鼻の奥をツンとさせたものが瞳に膜を張り、大和さんの車を滲ませた。

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