テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「――本日からまた、ステラ様につかえさせていただきます。ノチェブランカと申します」
「ノチェ~久しぶり」
「チッ、何で、闇魔法の魔導士メイドが」
「……お久しぶりです。ステラ様」
「無視するな!」
ぎゃんぎゃんと、子犬みたいに騒ぐアウローラを無視し、私は、フィーバス辺境伯邸で働くメイドの服に着替えたノチェの手を取って、お疲れさま、これからもよろしく、という意味を込めて彼女の手を握った。彼女は、硬い表情を崩し、「はい」と手を握り返してくれた。
フィーバス卿に聞いたところ、光魔法の家門で働く上での注意事項、メイドとしての技量、経験、魔法の訓練……その他たくさんの試験&試練を乗り越え、ノチェは正式に、フィーバス辺境伯の元――私のもとで働くことになった。一応、フィーバス卿には、ノチェのことを伝えており、難しいが……と言われたものの、その話を受け入れてくれて、ノチェにその資格があるならといろいろ手を回してくれた。しかし、やはりといっていいのか、闇魔法の魔導士が光魔法の魔導士のもとで使えることは前代未聞であり、それなりに難しい問題であった。魔法同士の反発だったり、価値観の違いだったり。それでも、ノチェは乗り越えてきたわけで、今ここにいるのは彼女の努力の証明でもある。
(まあ、アルベドの婚約者で、そこのメイドっていうんだから、邪険に扱えなかったっていうのもあるのかも)
でなければ、いくら娘の話であっても、フィーバス卿は首を縦に振ってくれなかっただろう。前代未聞なことが、二つも起こって、それを受けれてくれるフィーバス卿の度量の広さには頭が上がらない。これからも、フィーバス卿には感謝して生きていかなければならないなと思った。それもあったのに、またブライトのことも頼んでしまったので、申し訳ない気持ちでいっぱいだったのだが、一つずつクリアしていき、何とかスムーズに事が運んでいる。
「難しい試験だったはずなのに、なんで……」
「アウローラ」
「はーい、何ですかステラ様」
「今日からノチェも一緒に働くんだから仲良くしてよね」
「はーい」
「返事だけいい……」
私につかえてくれる直属のメイドが増えたこともあり、私の身の回りの危険が減った、危険度が下がったというのは喜ばしいことだろう。フィーバス卿もその面に関しては納得しているようで、娘に何かあってからでは遅いからな、と深くうなずいていた。
だが、問題なのは、アウローラとノチェが全く合わないということ。私はどっちも好きだし、どちらかをひいきすることはしないけれど、彼女たちがいがみ合っているようじゃ、落ち着かないなとは思う。この間もそうだけど、ノチェの闇魔法の魔導士嫌いはどうしたものかと今も考えている。
過去に何かあったとは知っていても、ノチェがやったことわけではないのだから、仲良くしてほしいところ……けれど、そうはいかないのが現実である。それが許されるのなら、そもそも、闇魔法と光魔法の間でいがみ合いも、憎しみあいも何も起きなかっただろうから。
(ちょーっと、胃がキリキリしてきたかも)
「改めまして、よろしくお願いしますね。アウローラ」
「私の方が先輩なんですけど!?もっと敬ったらどうなんですか!?」
「メイドとして、ここではありませんが、働いて、同じくらいだと思いますが。ああ、私の方が長いとも、フィーバス辺境伯には聞きましたが」
「経験が長いと関係ないんですー!私の方が、ここでは先輩なんだから!」
「ちょ、ちょっと二人とも……」
始まった、と思ったときには遅く、どうやって止めようかと頭が痛くなってきた。
仲良くしてほしいんだけど、そう簡単にいかないのがこの二人なのだ。多分それは、光魔法だから、闇魔法だから、という問題より、根本的にその性格が合わないのだろう。
ノチェは、淡々と仕事をこなすタイプだし、アウローラは大雑把ながらもてきぱきと仕事をこなすタイプ。どちらも、メイドとしてはしっかりしているし、仕事も申し分ないんだけど、そのいがみ合いに時間をかけないでほしいなとは思った。
「アウローラ、本当に駄目だからね?あまり、ノチェに突っかからないの」
「わ、私だけなんですか!?あっちにも言ってくださいよ!私とステラ様の仲じゃないですか」
「仲って……」
「主人と、そんな仲……というあなたの考え、間違ってないですか?」
「はあ?主人に心を許してもらってるっていう証拠ですけど何か!?それとも嫉妬ですかあ!?」
「もう、アウローラも、ノチェも……喧嘩するなら、二人でどこか違うところでやってよ……」
私を挟まないでほしいなと常に思う。ただでさえ、人の喧嘩なんて見ていられないものだし、人が起こっている姿を見て、気分がよくなる人はいないだろう。
それも、これから私のために働いてくれる二人が仲が悪いというのも、なんだか嫌だなと思う。かといって、強制的に仲良くさせようなんてしてもきっとかえって、逆効果なのだろう。
(どうすればいいんだろ……)
「ま、まあ、二人とも……さ、私のメイド……侍女なんだし、仲良くしてよ……って言っても難しいのか……うーん」
「すみません。少しカッとなってしまって」
「お前が悪いんじゃん!」
「……す、素直に謝れるノチェは素敵だなあ……なんて」
「す、すすすす、すみま……!私だって、別にこんなこと言うつもりじゃなかったんですよー信じてください。ステラ様あ!」
やっぱり、アウローラの方が子供だ。でも、扱いやすい……っていうのも変な話だが、素直じゃなくても、非はあると認められるところはいいところだと思う。ちらりと、ノチェの方を見れば、彼女はにやりと笑っていて、先に謝った自分の方が正しいと言っているようだった。
(……あれれーノチェってこんなんだったけえ)
一緒にいた時間は短い。けれど、彼女からそれなりに信頼を得ていたわけで、まあ、タイプは違えど、話し合えるような仲だった。けれど、ノチェにも、苦手なタイプ、嫌いなタイプはあるようで、アウローラよりも、自分が優れているとそう思っていたいのだろう。実際、メイドしては、ノチェの方がしっかりしている。魔法の技術も高いのはそうなのだが、いりょくとしてはアウローラも負けていない。どっちもいい面があって、人間らしい悪い面もあって。それを互いに、自分自身も理解していないとなると、まだまだだな、とは思う。
「まあ、ほんと、喧嘩しないでね。喧嘩するにしても私の見えないところでやって」
「はーい」
「はい。わかりました。ステラ様」
その返事は、果たして正解なのか。
私がいないところで喧嘩する気満々というようにも取れてしまい、若干不安ではあった。屋敷が壊れない程度、壊れても直せるなら喧嘩してもいいんだろうけれど、さすがに、フィーバス卿につかえる、その娘につかえるメイド同士なので邸をめちゃくちゃにして、フィーバス卿に目を付けられるなんてことはないだろうけれど。アウローラに関しては、フィーバス卿Loveだから追い出されるようなことは絶対避けるだろうし。ノチェも頭がいいし、ここまでこぎつけるのに時間と努力を続けてきたから、馬鹿真似はしないだろうけど……
(不安なんだよなあ……)
人間怒りで我を忘れることなんてしょっちゅうあるし(あったらこまるけど)、二人が本気でぶつかり合ったら、誰が止められるのだろうか。私か、それとも、フィーバス卿か。そうならないように願いながら、私は、さっそく仕事だと部屋を出ていった二人を、不安げに見守り、ベッドに倒れこんだ。天井が高い……
「あとは……リュシオル…………だけ、かな」
水色の髪の、親友の名前を口にして目を閉じる。何処にいるんだろうか。アルベドにも協力してもらっているけれど、解雇された元メイドなんて、探せるのだろうか。
「……会いたいな」
そして、少しでも、この孤独をわかってほしかった。なんて、傲慢すぎだろうか。