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【Tb-2】
あの日。
紗栄子は、約束していた待ち合わせ時刻ぴったりに現れた。会ってすぐに、私は彼女に対する違和感を覚えた。
というのも、紗栄子が着ている明るいピンク色のワンピースとは相反して、顔や腕、脚の至る所に黝(くろず)んだ痣が見えたのだ。
「ごめん、驚いたよね……?」
紗栄子は、目を伏せながら言った。「言葉を失う」とは、この状態のことを言うのか。と、その時の私は不行儀にもそう思ってしまった。
「実はね……」と、黙り込んでしまった私を置いて、彼女は彼女の身に降り注いだ出来事を淡々と述べていった。
「私の彼氏、ヤバイ人だった」
大まかに憶えている内容を掻い摘むと、要するに、二人の婚約が決まってから、彼氏の性格がガラリと豹変したらしい。
今まで優しかった彼氏は、紗栄子の全てを支配、つまり彼女のことを『コントロール』するようになったのだ。
暴力暴言だけでは飽き足らず、同意のない性暴行、いわゆるレイプ行為もあったようだ。
毎晩毎晩、殴る蹴るの暴行。痣が出来たところを、また殴る。体力が疲弊しても、意識が昏倒しても。容赦なく殴り続ける。泣いて辞めてと懇願する相手の姿を見て楽しむ。それが、彼氏の特殊な性癖だった。
その歪み切った性癖は、じわじわと紗栄子の心をボロボロに喰い蝕(むしば)んでいった。
既に紗栄子の身体は、彼氏に操られた玩具と化していた。
「別れたら殺す。って言われたの……」
もう私、どうしたら良いか分からない!と、紗栄子は泣きながら叫んだ。
その叫び声は、周りの人の視線を集めた。その痛い視線に居た堪れなくなった私は、泣きじゃくる紗栄子の背中を、痣だらけであろうその身体を優しく撫でてあげた。
「もう大丈夫だよ。大丈夫だから。言ってくれてありがとう。私が何とかするからね」