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「診察の結果、ぺいんと様は記憶喪失だと…。」
深刻な表情をした医師が、しにがみさんにそう告げた。しにがみさんは、ただ無表情でその報告をうなずきながらちゃんと聞き入れていた。
本当にメンタルが強く、少し羨ましいくらいだ。
「なるほど。やっぱり色んな行動を起こして思い出すしかないんですかね?」
「…そうですね。」
しにがみさんはふと、たったの一瞬だけ顔が強張る。それに気づいた医師は、優しい笑顔をしにがみさんに向けて言葉を放った。
「でも、できると思いますよ。」
「えっ。」
そう言葉を放った医師に、しにがみさんは驚いた顔を向けた。それに微笑みながら積極的なフォローをして医師は言葉を繋げていく。
「だって、心友なんでしょう?できない可能性が100%なんて、私は微塵も思っちゃいませんよ。」
そう声をかけた医師に向かって、満面の笑みでしにがみさんは「はい!ありがとうございます!」と大きく返事をした。
そうして医師たちはしにがみさんに色々事情を説明してから部屋から退室をした。
「よしっ。じゃあぺいんとさん!どこか行きたいところとかありますか?」
「えっ、行きたいところって…。」
どこに何があるのかもわからない自分にとっては、”どこか”はわからないのだ。そのように困惑していると、しにがみさんは「あっ」と気づいたように声を上げた。
「わかんないですよね?!んー…じゃあ、まずはぺいんとさんの自宅ですかね!」
「お、俺の家…?」
そう問いかけると、「はい!」と言って彼は車椅子を用意した。彼の顔を見れば、乗れと言わんばかりの顔をしている。友達であったという彼にその姿を見せるのは少々恥ずかしいが、ここまでしてくれているのに申し訳ないと思い、体を動かして乗る。
「よーっし!じゃあぺいんとさんの記憶取り戻す作戦、いっくぞー!」
「わ、わわっ!!」
勢いよく車椅子を押す彼は、実に楽しそうに見える。楽しませようと、必死なのだとわかる。けれど、わかっていても彼と過ごすと何故か少し楽しいんだろうなぁと思っていた。
……………
車椅子を押されながら5分ほど。
俺の自宅だと思わしき場所についた。質素でもなく、豪華でもない。ただ単に普通の家であった。
「探索してみてください!何か思い出すかもしれませんよ!」
そういうため、1人で車椅子を動かした。
俺の目に留まったのは立て掛けている1つの写真。
綺麗な緑の木が背景を埋め、真ん中には自分としにがみさんが映っていた。
その2人の顔は実に楽しそうに笑顔だ。しにがみさんの方は俺に頭をぐしゃぐしゃにされ、怒りながらも楽しそうな顔をしており、俺もしにがみさんを眺めながら楽しそうな顔をしていた。
「っ…!」
ふと、頭がズキッと痛くなる。
……?日前……
『背景この葉っぱの緑にしようぜ!』
そう言ったのは、俺だ。
幽霊のように三人称視点からの記憶を見ているようだった。
実際、自分を見た感想としては”こんな人なんだ”ということだけだった。
『えっ、でもなんか寂しくないですか?』
そう言ったのはしにがみさんで、変わらず敬語である。だけれど楽しそうな顔をしながら俺と駄弁っている。
『寂しくなんかないだろ!俺らが映ってんだから!!』
そう言い張る俺に、呆れた顔をしながらも笑った顔をしたしにがみさんはスマホを準備し、タイマーをセットする。
『あっ!ちょっ、髪型ぐしゃぐしゃにしないでくださいよ!』
『いいじゃん!こっちの方がしにがみのヘアー的に似合ってるぜ!』
『こんのー!』
……………
「ぺいんとさん?ぺいんとさん!?」
「っ!」
ハッと意識を向ければ、俺は写真を手に取ったまま下を俯いていたらしく、しにがみの顔が目の前に来ていた。
「ぬわぁっ?!びっ…くりした…。」
「!…今の、驚き方…」
ふいに言葉に出た俺の驚き方に親近感が湧いたのか、しにがみは驚いたような顔をしていた。
「もしかして、記憶、ちょっとだけ思い出しました?!」
「えっ、ちょ顔ちけーよしにがみ!…っあ。………え、えと……。」
咄嗟に出た言葉に自分もびっくりする。記憶を見た感じ、確かに呼び捨てだったが、急に呼び捨ては流石に失礼だろうと思い謝ろうとするも声が出ない。
「あっ…ご、ごめんなさ_______」
「そ、そのままで!!」
「______へっ…?」
焦ったような、嬉しいような顔をしながらそう言ったのは間違いなくしにがみさんだった。
「そ……その呼び方が、いいです。……っ、しにがみって、呼ばれてましたから!」
恥ずかしそうな顔をして懇願してくる。その姿が、何故か面白くて笑ってしまった。
「えっ?!な、なんかおかしいですか!?」
「ははははははっ!」
何故か、笑いが止まらなかった。
彼のことを何も知らないはずなのに、何故かその姿が面白おかしかった。なんだか、しにがみさんっぽくないな、って思ったのは元々の俺から見た感想なのかも知れない。
「……ふふっ、よしっ。じゃあ僕の家にでも行ってアルバムでも見ます?」
「それ、いいですね!」
「……じゃ、行きましょ。」
そうして車椅子を押されて玄関から出る。
「「あっ。」」
「し、しにがみくん…?!」
目の前にいたのは、白髪が特徴的な黒猫をイメージしたパーカーを着た人だった。