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「く、クロノアさ______」

「ごめん、じゃあね。」


ピシャッと勢いよく音を立てて扉を閉めて白髪の人は出ていってしまった。 ここは俺の自宅だ。何か用でもあったに違いないはずなのにすぐに帰っていったのだ。

ふと、しにがみの顔を見る。

哀しそうで、複雑で、諦めが悪いようで、悔しいような顔をしていた。


「し、しにがみ…今の人、誰?」


恐る恐る声をかけるも、しにがみはガクブル震えて怯えたような顔をするばかりだ。


「ぼ、僕が………僕が、悪くて……違う、僕じゃない…!諦めたつもりなのに…何で!何でなんだよ?!」

「っ… 」


次第にしにがみの声は大きくなり、明らかに今までとは違うしにがみだった。涙を流して、自責するだけだ。


「ねぇ、しにがみ______」

「僕のせいで…トラゾーさん、クロノアさん…なんで、離れないでください…!!」


俺が声をかけようが、しにがみにはこの声は届かない。

そんな彼を見ていて、少しずつ心がむずむずしてくる。今までの俺なら、どうしてた?今までの俺を知らないから、わからない。

どのように気づいて、どのように話しかけて、どのように慰めて、どのように解決していたのか。そもそも解決できるような人だったのかもわからない。

けれど、なぜか頭にあったのはたった一つだけだった。

“考えるより先に行動”だ。

俺は痛む体を無理やり立ち上がらせ、しにがみを抱き締めた。


「…へ?」


微かな彼の声が聞こえたと同時に、痛む体は立ち上がったままの体勢を拒み、そのまま倒れた。


「……ぺ、ぺいんとさん?」

「…俺、わかんない。」

「えっ…」


ふと、なぜか目頭が熱くなる。

泣いちゃダメだ。分かっているのに、目尻に溜まった涙は溢れ出していた。


「わかんないよ…話してくれなきゃ…!」

「っ…。」


今の俺の顔はぐしゃぐしゃだろう。涙を出し、熱くなっている顔。

でも、目の前にいる彼も同じだ。


「ははっ…やっぱ、ぺいんとさんだぁ…。」


笑いながらも悲しそうに泣いているそんな彼の顔に、つい言葉に言ってしまった。


「俺とおんなじ顔してる…!」

「はは…!ほんとに、おんなじ顔です…!」


2人で泣いているくせ笑いあって、少しばかりおかしい状況だ。

でも、なぜか心がポカポカして仕方がなかった。


…………………………


「さ、さっきはごめんなさい! 」

「大丈夫だよ。」


リビングへと向かってからお互いの醜い顔をいつもの顔よりしおっとした顔に変えて話し合っていた。


「…クロノアさんは、僕たちの先輩の中学3年生です。それに、心友の1人でもあります。」


詰まった声を出しながら、ゆっくりと彼は説明していく。

それに頷きながらちゃんと相手を待つようにして顔を見る。


「でも、今後のことで喧嘩しちゃって…。」

「今後?」


そう問いかけると、しおっとした顔のまま、俺の目を見て言葉を吐いていく。


「僕達、貴方にほぼほぼの責任を負わせちゃってる現状がありまして…それの話し合いで喧嘩しちゃってまして…」

「…そっか。」

「この話し合いはぺいんとさん抜きにしてたので、思い出すことは何もないと思うんですけど…。」


確かに、話を聞いていれば頭の激しい痛みなんてなかった。だけど、少しだけ胸が痛く感じていた。何も思い出すことはないのに。


「…クロノアさん的にはもっと分担したいらしくて。でも、僕できること少なくて断ったら、予想以上の大喧嘩ですよ。」


哀しそうな笑いを貼り付けている彼の顔は、あまりにも見たくなかった。

しにがみの話を聞いて、俺の自宅から出た。

時刻はすでに真昼時だ。

病院に戻って昼食を食べなければ何か言われるだろう。そう思って俺たちは帰っていたが、急いでいた感じなんて1ミリもなかった。


「…ごめんなさい、ぺいんとさんの記憶を戻さなくちゃならないのに。」

「え、いいよいいよ!しにがみも、すっきりしたでしょ…?」

「あ、それはもうバッチリ!」


しおっとしていた俺たちの顔はいつもの顔に戻っていて、普通に和気藹々と話をしていた。少しばかり車椅子での移動は恥ずかしいが、しにがみと話していれば、不思議と話の方へと意識がのめり込んでいた。


「ぺいんと!」

「?」


ふと、小さく俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。聞いたことのない声だ。白髪の人の声でも、しにがみの声でも、看護師さんの声でも何者でもなかった。 そこで思った。

まだだ、って。

まだ何かを忘れているって。

この2人以外にも、まだ…誰だ?家族?旧友?親戚?知り合い?先輩?後輩?誰なんだよ、お前は?


「ぺいんとさん?」

「ふえっ?!な、何?」


しにがみに名前を呼ばれて、ハッと意識が我に帰る。視線を向ければいつの間にか病室まできていたようで、しにがみは車椅子から降りずにぼーっとしていた俺を不思議に思っていたらしい。ゆっくりと、慎重に。でも急いでベッドへと転げた。


「食べさせてあげましょうか?」


ニヤニヤとした顔でそう問いかけるしにがみの顔は、頭を痛くさせた。

………いつもの顔だ。

ふと、記憶がフラッシュバックする。いつかの日の学校帰りだった。

下校中に食べ物をアーンとしているリア充を見つけた。俺たち2人で盛り上がっていて、ふざけてしにがみくんが今のように言ったのだ。

煽りを含め、ニヤニヤとした笑いで 『食べさせてあげましょうか〜?』って。

それに肩を動かして笑っていたクロノアさんと___________あれ?誰だっけ。

確かにそこにいたのは俺を含めて4人で、クロノアさんは『やめなよ〜』と言いながら笑っていた。

________まって、何で今俺はあの白髪の人をクロノアさんって呼んだんだ?呼び方なんて、知らないはず。


「…っぁ」


掠れた声がその場にぽつりと吐かれた瞬間、手が震えた。


「ぺいんとさん?!ぺ……しっか………い!」


しにがみくんの声も聞きにくくて_______やっぱりだ。俺、しにがみさんのことしにがみって呼べって言われてたのに。何で今、しにがみくんって呼んだんだ?

何で、何で?

思い出せそうなのに、思い出せないむず痒さがまた俺の首を締め付ける。


「「「お前は、誰なんだ?」」」ってね。

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