プリンが【森林エリア】で暴れている同時刻ミーシャは策を練っていた。
さて…。私が飛ばされた場所は【高地エリア】か。まぁ、悪くは無いけど個人的には【森林エリア】が良かったかな。せっかく体の使い方を覚えてきたのにここじゃあそれを活かす戦闘は出来そうにないじゃないか。仕方ないここは代わりに【土】魔法の練習の成果をお披露目といこうかな?とは言っても試す為には相手が必要な訳だがそう簡単に現れるか?確かにポイント制で減点は基本なし、デスペナ(デスペナルティ)もちょっとの間ゲームに参加出来ないだけでゾンビ戦法が通用する訳だがやりすぎれば復活までの時間は伸びるし、なにより自身の手の内を簡単に色んな人に見せびらかすことになる訳だから私だったら慎重に行動する。
けどなぁ…。動かないは動かないで暇になるのも事実だし、とりあえずお隣さんのエリア【平原エリア】か【海岸エリア】のどちらかを目指してみるのがいいかな。そうなると魔法を上手く利用できそうな【海岸エリア】を目指した方が正直安牌だが、私はロマン砲が好きなタイプの女だ。要はリスクを伴ってそのうえで私が勝つというそういう遊び方をするのが好きなんだ。なので、単品魔法使いが好まない【平原エリア】をめざして自らを餌とし、『魚釣り』でも楽しもうかな。そうと決まれば適当にプラプラ歩いて行くかな。マップ確認で自身の居場所は丸わかりみたいだからね。
ウィンドウを開きマップを眺めながら歩いていると自身の足音の他に複数の足音が混ざって聞こえる。その音は背後からしておりミーシャと同じ速度同じ歩幅で歩こうとしてるようだが体格差的に一歩に対する重みが違いそこで僅かに音が異なるためその違いで自身が何者かに後をつけられているのを察することが出来た。
(数は多分三人くらいかな?足音の他に金属の擦れるような音も聞こえるからおそらく一人は戦士とかの金属甲冑が居るな。後をつけるにしてもその装備じゃあ無理があったなぁ…。ま、それを察してかほか二名はそいつからさらに離れて後をついてるわけだが、相手を間違えたなぁコイツら。何故なら私は魔法使いでそういった索敵魔法も使えるんだよね?で、なんとこれ魔法を使う職業なら誰でも習得可能なため魔法を扱う職の中で攻撃寄りの私でも使える辺りソロで魔法使いをする人用の救済処置だと思われるが、私は全然余裕で悪用させてもらおうかな。とりあえずしばらくは気づいてない振りをしながら高低差のある場所まで道案内してやろう。 )
悪巧みをするミーシャは歩く速度を変に変えずに極力気づいてないふりを続ける。マップを開きながらその辺で拾った木の枝をブンブン振り回して危機感がない風を装う。そしてそのまま【平原エリア】付近までやってくるとおあつらえ向きの高低差のある場所を見つけ、ここで突然走り出しそのエリアにと向かう。
「なっ!?アイツ気が付いたのか!初心者のくせして勘は良いようだな!」
後ろを付けていた金属甲冑を装備した男はすぐにあとを追いかけ、その後ろを別の人物二人組が更に追いかける。
(馬鹿どもが私を追ってきてるな?この一週間私は数値に出ない身体の使い方の他に魔法の汎用性や単純に種類を増やして試してきてる。袋小路に追い詰めたと思ってるヤツらを逆に誘い込まれたっていうのを分からせてあげないとね?)
「この先を曲がったらそこは行き止まりだ!壁を登れたとしてもこのエリアは高地エリアだからすぐに登ることは不可能!追い詰めたぜ魔法使いの初心者さんよぉ?」
「イベント戦で初狩りを行うなんて品性が終わってるわねぇ?」
曲がった先で見た光景は高い壁に囲まれ逃げ場のないはずの行き止まりなのだが、正面には魔法によって足場を作りこちらを見下ろす少女の姿があった。
「ま、初狩りの最初の被害者が私で良かったわ。私ならあなた程度楽に倒せるもの。」
「そんな紙装甲の防具じゃあその辺のゴブリンの攻撃ですらも致命傷になり兼ねねぇのになぁ?」
「そもそも私は攻撃される前に消し飛ばすから防御が低くても問題ないの。それより貴方私を追ってきたってことは『覚悟』してきてるんでしょうね?」
「あぁ?」
その言葉の後唯一の出入口を土魔法によって塞がれてしまい四方八方が高い岩の壁で出来たバトルフィールドに変わってしまった。
「あなたがここから出るための条件はひとつ、私を倒すこと。私がやられれば壁は消えるけどそもそもあなたじゃ私を倒せない。」
「…随分となめた口を聞くじゃねぇか小娘が…」
「平等を期すため私も降りて戦ってあげる。それでも私負ける未来見えないんだけどね?」
「そのホラ吹きもこの辺で終わらせてやるよ!!」
数分後、金属甲冑を着たプレイヤーの後を追っていた二人組も到着するが二人が見た光景は正面の壁に顔だけ出して残りは土の壁の中に埋められている自分たちが追っていたプレイヤーと、その前にこちらを待っていたと言わんばかりに立つ気味の悪い杖を装備した少女が居た。
「あなた達の存在も私は気が付いてたわよ?漁夫の利なんてダメよそんなこと?まぁ、策としては全然理にかなってるけどね。」
「に、にげ……ろ……!こいつは………初心者の…ふり………した…………!!」
やって来た二人組に注意喚起する男だが喋っている途中に杖で顔を強打されその言葉は遮られてしまう。
「いやだなぁ?私は正真正銘初心者だよ?それにこのゲーム複数のアカウントは作れないんだからそれは無理。ただまぁ別ゲーとかで培った経験がここで活きてるし情報もなるべく新鮮なものを得てるから純粋な初心者と言われると怪しいけどね。」
雑談をしながらナチュラルに退路を塞ぎ強制的にデスゲームに参加させる。
「初狩りを行う悪い子は初心者代表として私が成敗するから覚悟しな?そこの土の壁に埋もれたダッサいオトナの隣に並べてやる。」
「魔法使いなら俺らの方が勝機はある!数的有利も確保してるんだからな!」
(確かに数で勝ってるし相手は盗賊という職種ですばやさもかなり高いことが予想される。更に盗賊の強みである状態異常攻撃は厄介なことこの上ないため、後衛職はかなり不利ではあるがコイツらは気がついてない。今この場所は『私が戦うために選んだ地形』という事を……。)
ナイフを取りだし二人はミーシャを挟むようにして攻撃を仕掛けるが、それを読んでいたのか地面が蠢き襲い来る両者の前に土の壁が現れ攻撃を防がれてしまう。
「くっ!?小賢しい手を使うのは魔法使いのお家芸だったな!」
「だが、その行動は明らかに近寄られると困るっていう事を暗に伝えてるも同然!その程度の小細工でこちらが手を緩めると思うなよ!」
「……そーいう固定概念捨てた方がいいよ?」
その言葉の後片方の盗賊は四方から現れた土の壁によって閉じ込められてしまい、強制的に一対一を強いられる形となる。
「こいつ!?俺を閉じ込めることで数的有利を封じたって言うのか!?」
「二人同時相手も出来たが、アンタはその暗闇の中でそのから聞こえる阿鼻叫喚な怯えるといいよ。」
「ふ、ふざけるな!!この程度の壁なんぞ………。」
「それただの土の壁じゃないんだよね。【魔法複合】を使い【土】と【火】を組みあわせて土を更に強固にしたからかなり重たい攻撃を持ってないと壊せない仕様になってるの。だから盗賊には壊すのは困難なはずよ?」
「く、くそぉ!!」
「それじゃあ外の音を楽しんでよね?その想像力を働かせて、さ?」
その一言の後取り残されたもう一人の盗賊とミーシャが戦闘をする音が聞こえる。ミーシャの魔法を発動し壁が崩れる音、盗賊の攻撃を杖で相殺してるのか金属が何かとかち合う音、男の咆哮と女の高笑いの声、明らかな大技を使った衝撃とその爆発音、それと共に聞こえた男の悲鳴…。そして突然の静寂の後自信が閉じ込められている壁をコンコンっと叩く音が聞こえたあと自分に話しかける女の声
「お待たせ…。外の状況は音で何となく把握出来たかな?少しの戦闘音の後の静寂と私がこうしてあなたに語りかけてる現状。馬鹿でも外がどうなってるかは想像が着くはず。で、あなたは今どんな気持ち?絶望に打ちひしがれてるのかしら?恐怖で歪んだ顔を私に見せてくれる?」
一枚の厚い壁の裏から聞こえるその女の声は少し高くなっており明らかにコンバットハイと言われるような状態だと予想される。今ここで外に出たとしても自身が生きて帰ることは不可能、かと言って善戦できるかと言われてもおそらくは無理だろう。最初に見たあの壁に囚われた男のように返り討ちにされるのが目に見えている。つまり自分はどう足掻いても『死』というものからは逃げられないことが確定している。ゲーム的には何度でも復活ができてチャレンジすることも可能だが、この一戦によって植え付けられる恐怖は強敵と言われるモンスターと対峙した時のそれを遥かに凌駕する。これ以降の対人戦に何かしらの支障をきたす可能性があるほど今の状況は恐怖で塗り固められていた。そんな彼の心境などはよそに隔離していた壁を取り除きその世界を彼に見せる。
そこで見えたのは最初に見た男と同じように土の壁に十字に磔られた相方の姿だった。
「……人の心とか捨てたのかお前は?」
「感情が一周してきて随分と冷静になれてるみたいね?」
「一思いに殺ればいいところをこう弄ぶお前はなんなんだ?」
「あなた達が初心者を集中的に狙っていじめる理由と大して変わらないわよ?許しを乞うてもがいてる様が私は好きなの。それも相手が『自分は優れてる人間だ』て思ってる奴のもがき許しを乞うその様がね?だからこうして晒してるのよ。残されたやつがこれを見れば精神的にも”来る”でしょ?」
「……悪魔かお前は」
「あら?いい言葉ねそれ♪」
「俺もそうなる運命なら同じようにやれよ。もう俺に勝機はない。」
「そんなふうに諦められると面白くないからもう少し足掻いて欲しいなぁ?」
「この状況を見てなおのこと足掻こうという選択肢は大体の人間には備え付けられてない機能だ。」
「……じゃあそうねハンデをあげれば希望が見えてくるかしら?」
「はぁ?」
「これから先私は魔法を唱えない。なのでこんな杖は使わないで真っ向から相手してあげる。」
「ふざけてるのか?」
「大マジよ?魔法使いのアドバンテージを捨ててまで戦ってあげようっていうの。どぉ?それならやる気出るかしら?」
「……確かに殺る気が湧いてきたわ」
「なら良かった♪最期の一幕楽しくやりましょうか?」
突然の無謀と言える申し出をしたかと思えば本当に彼女は杖をインベントリ内にしまい、別の武器を構えるでもなく素手で男と対峙しようする。
「…正気か?」
「えぇそりゃもちろん。だってこのイベントはデスペナが緩いし色々試すのにもってこいの場だからね。今回私が試したいのは『今の自分の魔法使いとしての実力』と『他プレイヤーの実力』そして『会得したこの世界での身体の使い方』この三種類が知りたいの。もちろんメインはこのイベントで上位十名に入ること。一位じゃなくてもトップテンに入れれば私は満足なのよね。だからこうしてあなたと”遊んでる”わけだし?」
「…そうか、なら殺す気でいかせてもらう!」
「それくらいしてもらわないと私が困る!」
容赦なく男はナイフを構えて斬りかかる。その攻撃をミーシャはすんでのところで回避し足をかけて転ばせたあと持っていたナイフを蹴り飛ばし手から剥がしたあと寝そべる男の腹部目掛けて拳を振り下ろすが相手も簡単には殴られる訳もなくすぐさま身体をひねり起き上がりながらミーシャの顔に蹴りを入れて起き上がる。蹴られたミーシャはニヤッと笑ったあと口から血反吐を軽く吐き捨て口を拭いながら話し始める。
「プッ………。やっぱり魔法使いは物理防御が低いからこんな蹴りでも警戒はしないとダメか。」
(な、なんなんだこいつ………。装備は明らかに初心者のはずだ。なのにこの肝の座り方と言い行動と言い、ただの初心者じゃない。それに、こうして蹴られてニヤつくその精神性が常人のそれでは無い………。)
「本当は杖を持ちながら戦闘する練習をしたいんだけど、謝って魔法を使う可能性はゼロじゃないから今回はこうして素手でやる訳で…。もし杖を使うならそのリーチを活かして………。」
(一人の世界に入り込んでる今のうちださっきのナイフを回収出来れば…いや、回収はせず新たに武器を出せばいい。今のこの状況に合うナイフは……麻痺か毒のどちらかのナイフだ。ここは無難に毒によるスリップダメージで削りに行く! )
即座にウィンドウを開き武器メニューからナイフを選択しミーシャに再度襲いかかる。今回はスキル【分身】を使い自身を複数体作り出し本体を探らせない戦法をとる。
「一人でもスキルを使えば数をそろえることが出来る!」
「…おっ?いいねぇ!プリンがやってた複数体の相手取りの練習にピッタリだ!」
既に作られている地形を上手く利用し一体一体丁寧に処理していく。
「私はプリンと違う攻撃を主体にしようかな?」
そう言いながらナイフの刺突を軽くいなして利き足で横っ腹を蹴り飛ばす。背後から現れた奴に対しても軸足を変えて身体をひねり遠心力を利用した蹴りで相手の顔を蹴り飛ばし首をいわす。
「…これも偽物か。本体は一体どこに隠れてるのやら。」
「ここだよ!」
その声とともに突如目の前に現れ毒ナイフがミーシャの皮膚を切り裂き状態異常を付与することに成功する。
「ッツ!?」
「あまり大人をなめんなよ小娘風情が!」
「ナイフのダメージプラス毒でもう体力は半分を切ったか。そしてスリップダメージも考えると長引かせたら私の負けか。」
「ほら?魔法使いたいんじゃねぇのか?」
「…優位になった途端饒舌になって気分も上がってきたみたいね?確かに魔法を唱えればあなたなんてすぐに消し飛ぶけど唱えなくてもあなた死ぬから大丈夫。」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
調子に乗った男は今の勢いを崩さず真っ向から切りかかる。しかし、ミーシャは冷静に避けてカウンターとして回転をつけた蹴りで後方に飛ばし壁に吹き飛ばす。
「ぐはっ!?」
「勢いづいてきたところ申し訳ないけどあなたの負けよ。」
「な、なんだ………」
喋り終える直前で彼が飛ばされた壁から土で出来た棘が体を貫き体力を一気に削る。
「ば、ばか……な?魔法は……使わない……はず………。」
「残念。私はこの戦闘で『魔法を唱えない』と言っただけで『使わない』とは言ってないのよねぇ?」
「く、くそ……が。」
「あなたが今貫かれたそれ、『ソイルニードル』ていう初期魔法なんだけど私が新たに覚えた【トラップアップ】ていうスキルで魔法を罠として使えるようになったから試験的に使わせてもらったのよね。この場には幾つもの罠が張り巡らされててたまたまこの瞬間まであなたは踏まなかった。ま、最悪のタイミングで罠が起動したのは運がなかったわね?」
「……ま、まけ………か」
そう呟くと彼は光の粒になって消えていく。その後瀕死にしていた二人も杖で強打してご帰宅していただいた。
「毒は毒消し飲んで消して、体力はポーションで回復っと…。それにしてもうん、身体の使い方学んでよかったかも。魔法使いの弱点を無くそうと思えばなくせそうだから。まぁモンスターに効くかは怪しいけど少なくとも拳による抵抗よりも蹴りでの抵抗の方が威力もあるし杖持って戦うこと考えたら足が最適だな。あとはこれを研究して最低限の対抗手段として身につけておくか。」
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