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『夜にしか会えない同級生』
その子に会えるのは、夜だけだった。
昼の学校では、彼女はただの同級生だった。
同じクラスで、
同じ制服を着て、
同じ授業を受けているのに、
言葉を交わしたことは一度もない。
目が合っても、すぐに逸らされる。
呼び止めようとすると、
なぜか声が喉で止まる。
最初は、嫌われているのだと思った。
__夜の校庭で、再会するまでは。
部活帰り、校舎の明かりがすべて消えたあと。
フェンス越しに見えた校庭の端で、
誰かが立っていた。
月明かりに照らされて、
制服の輪郭がぼんやり浮かぶ。
「……こんな時間に?」
思わず声をかけると、その子は振り向いた。
昼間と同じ顔。
なのに、表情だけが少し違った。
「会えたね」
そう言って、彼女は微笑んだ。
それが、最初の会話だった。
「昼は……話しかけないで」
彼女はそう言った。
理由は教えてくれなかった。
代わりに、夜の校庭で話すことを提案された。
それから、
僕たちは夜にだけ会うようになった。
誰もいない校庭。
風に揺れる木々。
遠くの街灯の音。
彼女は、夜になるとよく話した。
好きな本のこと、
嫌いな教科のこと、
どうでもいい冗談まで。
昼間の彼女とは、まるで別人だった。
「昼の私は、ここにいないの」
ある夜、彼女はぽつりと言った。
「どういうこと?」
「 存在してるけど、存在してない」
その言い方が、ひどく怖かった。
僕は、彼女に触れようとして、手を止めた。
なぜか、触れてはいけない気がしたから。
季節が進み、
夜 は冷たくなっていった。
彼女の立つ位置が、
少しずつ月に近づいていくのに気づいたのは、 いつからだっただろう。
「……最近、遠くない?」
「うん」
彼女は素直に認めた。
「夜が、短くなってる」
それはつまり、
彼女の時間が減っているということだった。
卒業が近づく頃、彼女は言った。
「私ね、夜にしか存在できないの」
理由は、分からなかった。
最初からそうだったのか、
途中からそうなったのかも。
「朝が来たら、私はここからいなくなる」
胸が、痛くなった。
「じゃあ……」
「だから、昼は話さない」
昼の世界で関わると、
夜の彼女が薄れてしまうらしかった。
最後の夜。
空は、ゆっくり白み始めていた。
「ねえ」
彼女が、初めて私の手を取った。
触れたはずの手は、
冷たくて、でも確かだった。
「朝が来たら、忘れて」
「無理だよ」
即答だった。
彼女は、少し驚いた顔をしてから、
困ったように笑った。
「じゃあ、せめて__」
彼女は、私の手を強く握った。
夜明けの光が、校庭を照らす。
消えるはずだった彼女の輪郭は、
なぜか、そのままだった。
「……あれ?」
彼女が、目を見開く。
チャイムの音が、遠くで鳴った。
朝だった。
それでも、彼女は消えなかった。
「一緒にいたから、かな」
彼女はそう言って、笑った。
「昼と夜の境目で、手を離さなかったから」
その日から、彼女は昼にも存在した。
相変わらず無口で、目を逸らすけど、
夜の校庭では、ちゃんと笑う。
夜にしか会えなかった同級生は、
もう、夜だけの存在じゃない。
朝も、昼も、夕方も。
私は、彼女の名前を呼べる。
今度は、消えない。
コメント
2件
メリーバッドエンド最高すぎる…