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きなこもち
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#サレ妻
都築七美
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それからしばらく、榊は奈緒が公開しているSNSを遡っていった。
友人とのランチ、出先で撮った写真、カフェのドリンク、買ったばかりの洋服。
投稿された場所や日時を一つずつ確認し、水野が一花につきまとっていた時期を中心に見ていく。
けれど、いくら探しても、水野との接点を窺わせるものは出てこなかった。
「……ないですね」
一花の口から、思わず安堵の混じった声がこぼれた。
「今のところはね」
榊は画面から目を離さないまま、淡々とスクロールを続ける。
「少なくとも、公開されてる範囲じゃ、二人に接点があったと分かるものはない」
その言葉を聞いた途端、ずっと胸の奥に張りつめていたものが、わずかにほどけた。
「……やっぱり、奈緒じゃなかったのかもしれません」
自分の勘違いだったのかもしれない。
水野が「えらい」と口にしたのも、ただの偶然だったのかもしれない。
そう思えることに、一花はほっとしていた。
「そうだといいですね」
隣にいた神崎が静かに言う。
「ただ」
榊の声に、一花は再びモニターへ目を向けた。
「見つからないのと、なかったのは別だけどね」
「……はい」
「でも、今の時点で親友さんを疑う材料が増えたわけでもない。そこは分けて考えよう」
期待しすぎてもいけない。
けれど、疑い続ける必要もない。
一花は自分にそう言い聞かせながら、画面へ視線を戻した。
榊がさらに過去の投稿へ遡っていく。
その時、ある一枚の写真が目に留まった。
「あ……」
「どうしました?」
神崎の声に、一花はモニターへ身を寄せた。
画面に写っているのは、コーヒーカップと小さなケーキだった。
店名は記されていない。それでも、窓の向こうに見える景色と、木目の特徴的なテーブルには覚えがある。
「ここ……奈緒がよく行ってるお店かもしれません」
「知ってる店?」
「はい。前に一度、連れていってもらったことがあって」
榊がさらに過去の投稿を遡っていく。
すると、同じカップや店内の一角が写った写真が何度も見つかった。
「やっぱり……ここです」
一花は記憶を辿るように、ゆっくりと言葉を続けた。
「駅から少し離れてて、あまり人も多くないんです。奈緒、静かで落ち着くから好きだって言ってました」
奈緒が誰かと、人目を避けて話をするとしたら。
こういう場所を選ぶことも、あるのではないか。
ネット上には何も残っていなくても、実際に店にいた人なら、奈緒が誰かと一緒にいるところを覚えているかもしれない。
「……このお店、行ってみてもいいですか?」
榊はすぐには頷かなかった。
「今の段階じゃ、まだ推測です」
「分かってます。でも……店員さんなら、何か覚えてるかもしれないと思って」
榊は一花の顔をしばらく見たあと、再びモニターへ向き直った。
「まあ、事実を拾うには現地を見るのもありか」
店の情報を画面に呼び出す。
「俺はこっちでもう少し洗ってみる。現地は蓮と行ってきてもらっていい?」
「はい」
一花が頷くと、神崎もすぐに立ち上がった。
「分かった」
奈緒が何度も通っていたというカフェは、駅前の大通りから一本奥へ入った場所にあった。
小さな看板を頼りに店へ入ると、夕方前ということもあり、客の姿はまばらだった。
一花は一度だけ神崎へ視線を向けた。
神崎が小さく頷くのを確認してから、レジにいた男性店員へ声をかける。
「すみません。少しお伺いしたいことがあるんですが」
「はい?」
「こちらに、よく来る人のことで……」
一花はスマートフォンを取り出し、奈緒の公開SNSに載っていた写真を画面に表示した。
「この人、見覚えありませんか?」
男性店員は画面を覗き込み、しばらく考えてから首を傾げる。
「うーん……すみません。僕、最近入ったばかりで」
「そうですか……」
「何かあったんですか?」
「いえ……ちょっと確認したいことがあって」
一花は小さく頭を下げ、スマートフォンを下ろした。
やはり、ここでも何も出ない。
そもそも奈緒がこの店をよく利用していたからといって、水野と会っていたことにはならない。
自分はまた、疑いたいように物事を見てしまっているのかもしれなかった。
「ありがとうございました」
そう言ってその場を離れようとした時、カウンターの奥から別の声がした。
「あ、その人なら見たことありますよ」
一花は思わず振り返る。
作業をしていた女性店員が、こちらへ顔を向けていた。
「本当ですか……!?」
「はい。私、ここ長いんですけど、その方なら何度か」
一花は再びスマートフォンを差し出した。
女性店員は奈緒の顔を確認すると、確かめるように頷いた。
「やっぱり。この方です」
一花はわずかに身を乗り出した。
「よく来てたんですか?」
「はい。前は結構見かけましたよ。一人の時もあったし、女性のお友達と一緒の時もありました」
女性店員は記憶を辿るように視線を上げる。
一花は一瞬迷ってから、口を開いた。
「……男性と一緒に来たことは?」
「男性?」
女性店員が首を傾げる。
「どうだったかな……」
一花は無意識に指先へ力を込めた。
そのまま数秒、沈黙が落ちる。
「……あ」
女性店員が、小さく声を漏らした。
「そういえば、一度だけ……男の人と一緒だった気がします」
一花の鼓動が、大きく跳ねた。
コメント
1件
え〜〜〜!!ここで終わるの!?マジで気になりすぎる!!😭💦 一花がほっとしたのも束の間で「あ」の一言で心臓バクバクしたよ…。奈緒のことが大好きな一花の心情が伝わってきて、店で証言が出てくるシーンの緊張感がリアルだった… 榊くんのクールな判断力、神崎くんの寄り添い方もキャラ立ちしてて良いなって思った! 続きが待ちきれないです…!!🌸✨