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「そういえば、一度だけ……男の人と一緒だった気がします」
一花の鼓動が、大きく跳ねた。
「その人のこと、覚えてますか?」
思わず身を乗り出すと、女性店員は少し考えるように眉を寄せた。
「顔までは、はっきり覚えてないんですけど……」
「何か、特徴は?」
「ちょっと変わった人だった気がします」
「変わった?」
女性店員は記憶を探るように、しばらく宙へ視線を向ける。
「たしか、その男の人の方が先に来てたんです。一人で窓際の席に座ってて」
そこで一度言葉を切ると、何かを思い出したように続けた。
「待ってる間、ずっと小声で何か言ってたんですよ」
「何かって?」
「そこまでは聞こえなかったです。独り言みたいな感じで……同じことを何度も繰り返してるようにも見えて」
一花の背筋に、冷たいものが這った。
(まさか……)
面会室で見た水野の姿が、頭をよぎる。
幼い調子で話したかと思えば、突然笑い出し、意味の分からない言葉を繰り返す。あの落ち着きのない様子と、女性店員の話す男の姿が、嫌でも重なっていく。
「それで、私が注文を持っていったら急に黙って。『ありがとうございます』って、すごく丁寧にお礼まで言われて」
女性店員は少し困ったように笑った。
「それまでずっと一人でぶつぶつ言ってたから、その切り替わり方がちょっと印象に残ってて」
一花は無意識に神崎へ視線を向けた。
神崎も何かを考えるように、わずかに眉を寄せている。
まだ、この男が水野だと決まったわけではない。
独り言を言っていた。それだけで同一人物だと考えるのは、あまりにも早すぎる。
(でも……)
胸に生まれた嫌な予感は、簡単には消えてくれなかった。
「そのあと、この人が来たんですか?」
一花が奈緒の写真を示すと、女性店員は改めて画面を覗き込んだ。
「はい。たぶん、この方だったと思います」
「二人は、待ち合わせしてたように見えましたか?」
「そうですね。男の人が先に待ってて、そのあとこの方が来て向かいに座ったので。少なくとも、偶然一緒になった感じではなかったと思います」
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きなこもち
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#サレ妻
都築七美
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一花はスマートフォンを握る手に力を込めた。
奈緒が、誰かと会っていた。
しかも、偶然同じ店にいただけではなく、待ち合わせをしていた可能性が高い。
それでも、相手が水野とは限らない。
仕事関係の人かもしれないし、昔からの知り合いかもしれない。
(そう。男の人と会ってたからって、それが水野とは限らない)
何度も自分へ言い聞かせる。
「いつ頃だったか、覚えてますか?」
今度は神崎が尋ねた。
「日にちまではちょっと……でも、この辺でイベントをやってた時だったと思います」
「イベント?」
「はい。商店街主催で、三日くらいやってたかな。その期間中のどこかだったと思います。いつもより人が多くて、結構忙しかったので」
女性店員は記憶を辿りながら、イベントの名前を教えてくれた。
神崎がその場でスマートフォンから検索すると、過去に開催されたイベントの情報がいくつか表示された。
女性店員に順番に見せていくと、ある開催回で「あ」と声が上がる。
「多分、これです。この時だったと思います」
一花も画面を覗き込む。
表示されていた開催期間は三日間。火事が起きる、およそ一か月前だった。
水野につきまとわれていた、まさにその時期。
胸の奥がざわりと波立つ。
「ありがとうございます。助かりました」
店員へ礼を告げ、二人は店を出た。
外へ出ると、さっきまで店内に流れていた穏やかな音楽と話し声が、扉の向こうへ遠ざかっていく。
夕方の風が頬を撫でても、一花の身体にまとわりつく嫌な感覚は消えなかった。
「……奈緒、本当に誰かと会ってたんですね」
「まだ、その男性が水野だとは限りません」
「分かってます」
(違ってほしい)
あの店員が見た男は、水野ではない。
奈緒は本当に何も知らない。
そうで、あってほしい。
コメント
1件
読了〜!😭💦 第25話、じわじわ来る展開やばすぎる…!! 奈緒さんが水野と“待ち合わせレベル”で会ってた可能性、しかもそれが火事の約1ヶ月前ってのがもう胸に重くのしかかる…「違ってほしい」って3回も繰り返す一花の祈りみたいな気持ち、痛いほど伝わってきたよ…💔 女店員の「独り言を繰り返す男」って描写で、一気に水野の不気味さが蘇ってくるの恐怖ホラーすぎるんだけど!!😭✨ 次が待ち遠しすぎて夜しか寝れない…!