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そうこうしているうちに、俺らは中学を卒業した。家庭が苦しくて俺と同じ高校に入るのは厳しいと思われていたゆずきだったけど、金銭的な問題は何とかなったようで、同じ高校に進学することが出来た。
中学を卒業して直ぐに、クラスメイトだった女子から電話があった。ゆずきが見たこともない男子と駅前のデパートに一緒にいるという内容だった。俺はよせばいいのに、慌てて自転車を走らせてデパートに向かった。デパートに着くと、ゆずきがいそうな場所を手当たり次第に探し回った。そして屋上に行くと、ゆずきが見知らぬ男とベンチに座りソフトクリームを食べていた。楽しそうにお喋りをしていた。すると突然男はゆずきの肩に手をのせると顔を近づけてキスをした。ゆずきは抵抗することなくキスをされていた。ショックだった。世界の終わりが訪れたような気持ちになった。余りのショックで家までどうやって帰ったのか記憶がないけど、自転車を置き去りにして帰って親に叱られたという記憶は鮮明だった。
「デパートの屋上でキスしてた男と付き合ってたんだろ?」
「何それ? もしかして見てたの?」
「まぁな――悪いとは思ったよ。ゆずきの友達の土屋から電話があってデパートにいるって教えてくれたんだ」
「隠れて人のデートを見てるなんて趣味悪いよ」
「仕方ないだろ! ゆずきが男と一緒にいるなんて聞かされたら居ても立っても居られなくなって、気付いたらデパートに来てたんだから――」
「付き合ってる訳ないでしょ! 私は心に決めた人がいたんだから」
「だったら何であんな男とデートをしてキスまでしてたんだよ?」
「高校に入るのにお金が必要で、お母さんが親戚からお金を借りたの。彼はその親戚の息子。彼女がいるのに誰彼構わず、女子に声をかけているような最低の男よ。向こうの親を通して遊びに誘われたから仕方なくデートをしただけ。彼とデートをしたのは、あれが最初で最後――」
「そんな――」
俺はそんな男のために、ゆずきを諦めたというのか――。
「圭太、まだ間に合うかな?」
「間に合う?」
「あの頃のように戻れないかな?」
「間に合うも何も、嫌いになった訳じゃない。それに俺だって戻れるなら戻りたい。ただ、俺の中には今でもマナがいるから、俺と一緒にいても悲しい思いをさせてしまうかもしれない――」
「それでもいい。圭太といつも一緒にいられるなら、私はそれだけで幸せだから」
ゆずきはそう言うと、恥ずかしそうな顔をして、再び俺の胸に顔をうずめた。
「絶対に不安にさせない。確かに、マナを俺の中から切り離すことは難しいかもしれないけど、ゆずきだけを愛していく。俺は今というこの時間をゆずきと一緒に送りたいんだ」
俺はゆずきを強く抱き締め、決して離さなかった。