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「ふぅ、やっと街に着いたな」
俺は汗を拭うと大きく深呼吸をした。
「……はぁはぁはぁはぁ」
下を向きアリサが息を切らせている。疲労困憊しており、しばらくは口を開けないようだ。
無理もない。洞窟から出発して四日。食事と睡眠時間を除きすべて移動に費やしたのだから。
「身体強化も使えないくせにどうしてそんなに速いのよ!」
しばらくして呼吸を整えたアリサが顔を上げ、俺に近付いてきた。
アリサは魔力で身体強化ができるらしく、走ってユグド樹海まで来ていたのだ。
帰りも走るということで「私は問題ないけど付いてこられる?」と聞かれたので問題ないと返事をした。
最近はモンスターの肉を食ったおかげか調子もよく、何となく走れそうだったので同意したのだが俺の方が速いとは思わなかった。
「ほら、水でも飲んで落ち着いて」
「ありがとう。あんたの出す水美味しいわよね」
アリサは俺が作ったエリクサーを受け取ると笑顔を返す。
彼女にはこれがエリクサーであるとは説明していないので、俺の能力は美味しい水を無限に出せると思っており、道中ずっと渡し続けていた。
左手で髪をかき上げ瓶に口をつける。頰から首筋にかけて汗が伝うのを何となく魅入ってしまった。
俺も自分用のエリクサーを作り口に含むと、疲労が一気に抜けていくのがわかった。
「取り敢えず、事情を話したいから錬金術ギルドに来てもらえないかしら?」
「ああ、構わないぞ」
俺は首を縦に振った。元々そうすると話していたし、俺が出頭しなければアリサの減俸がとかれないからだ。
「それが終わったら、素材の買取もしてあげる。錬金術ギルドは羽振りがいいから、冒険者ギルドなんかより高く買い取ってくれるはずよ」
本来なら錬金術ギルドは個人の持ち込みを断っている。これは冒険者の地位が低く見られていることもそうなのだが、大したことのない素材に職員の手間をわざわざ割いていられないからだ。
「それは助かるな」
ところが、今回はアリサが直接話をつけてくれることになっているので、特例として買い取ってもらえることになる。
冒険者ギルドを通さないことで中間手数料を抜かれることがないため、普通に売るよりも利益が上げられるとのこと。
「それじゃあ、早速行きましょう」
アリサは俺の手を握ると、街の中へと入って行った。
「なるほど、あなたが魔導具を起動させたと言うのですね?」
「はい、この度は申し訳ありませんでした」
机の上に両肘をついた三十代後半か四十超えの中年女性。装飾はネックレスやイヤリングで指輪はしていない。
アリサに連れられて錬金術ギルドに到着した俺は、ギルドマスターと面会をしていた。
「偶然にも人違いでドアの修理を頼まれてしまい、そのあと魔導具に興味が湧き、つい触れて起動してしまったんです。まさかそんな大事になっているとは知らず、アリサさんにもご迷惑をお掛けしました」
俺が経緯を説明すると、ギルドマスターは冷たい目でアリサを見た。
「アリサ、犯人を発見したのは認めますが、そもそもドアを壊したのも貴女でしょう?」
「うっ!」
アリサが苦しそうな声を出す。もしかしてドアについては藪蛇だったのか?
彼女は悪くないとフォローしたつもりなのだが雲行きが怪しくなる。
「どうしてドアを壊したんだ?」
何か事情があるのなら弁明の機会を与えるべきと考えて話を振る。
「気に入らない貴族に言い寄られてムシャクシャしてたから」
物に八つ当たりをしたらしい。それは確かに弁明できないな。
「はぁ、いずれにしても褒められたことではありません。もし本当なら、結局の原因は貴女の怠惰にあるのですよ?」
「……反省しております」
この時ばかりは彼女も言い返さない。
「それより、もしかして疑われていますか?」
俺はギルドマスターの「もし本当なら」という言葉が気になった。
「当然でしょう。何せこの魔導装置に一人で魔力を補充することができた人間はこれまで四人しか存在していないのです。アリサが罪から逃れるため貴方を連れてきた可能性もあります」
「私はともかく、ミナトを疑うのは止めてください。彼は私の為にきてくれたんです!」
アリサは必死な様子でギルドマスターに訴えかけた。
実際にやったのは俺だし、アリサがそのような卑怯なことをするような人間でないのは知っている。
「だったらどうすればいいですか?」
ようは、目の前のギルドマスターを納得させることが出来れば良いのだ。
「施設を動かすための魔導装置は全部で五つ。貴方が充魔した魔導師百人分の魔力が入る魔導装置はまだ魔力が残っています。ですが他の魔力が入る魔導装置がそろそろ空になりますので、そちらで本当なのか試します」
「そんなっ! だってあの魔導装置は容量が……納得できません!」
アリサは必死な様子でギルドマスターの提案を断った。
「せめてあの魔導装置がからっぽになるまで待って欲しい」と言うのだが、ギルドマスターも「その間に逃げるか小細工をするつもりでしょう!」と一歩も引かない。
魔導装置に魔力を補充するだけという、同じ手順を繰り返すのに何を争っているのだろうか?
しばらく事態を見守っていたが、揉めに揉めて話の決着がつかないので、これ以上は時間の無駄と判断した。
「俺はそれで別に構わないですよ」
「良くないわよっ! だって、今空っぽの魔導装置って……」
「アリサ、本人が良いと言っているのです。ミナトさん、さあこちらに来てください」
ギルドマスターが笑みを浮かべ立ち上がり俺を案内する。その表情から「できるわけがない」という雰囲気が漂ってきた。
「ええ、案内してください」
「……ミナト」
アリサが不安そうな顔で俺を見る。
俺たちはギルドマスターについて行くことにした。