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「まだ言うか」
「何度でも言います。認めて貰えるまで」
「ふんっ、どうやって誑かしたかは知らないが、それは嘘だ」
「何故、そう言いきれるのですか」
「認めないからだ」
どんな独裁者よ。
呆れてものも言えない。いっても、この人に耳はついていないと思った。呆れるだけの騒ぎじゃないと。
まあ、もう、認めて貰おうなんて思わないけど。どうせ、認める気はないってはじめから、顔に書いてあるから。
何を言っても無駄だって分かっている。でも、吐き出すだけはさせて欲しかった。そうじゃないと、もうやっていけそうにない。
「陛下に認めて貰えずとも、私達は愛し合っているのです。それに、聖女であれば、当然の権利ではないのですか」
皇太子と、聖女をはじめからくっつける算段だったのなら、私でも良いのでは? という、卑怯に感じつつも、そう言ってやれば、黙るだろうって思って私は言ってやった。折れるわけにはいかない。
私がそう言うと、陛下の眉に深い皺が刻まれる。
「偽物が何を言う」
「偽物ではないです。災厄を打ち払い、混沌を倒したのは私です」
「災厄を打ち払い、混沌を倒したのはトワイライトという聖女だ。貴様ではない。貴様の、妄想で、聖女を汚すな」
「私が、聖女じゃないと、仰るのですか」
「ああ、そうだ。貴様は、聖女を名乗っているだけの偽物だ。聖女を名乗るのですら、罪に問われるというのに、そんなことも知らぬのか。恥を知れ」
と、圧をかけられる。
そんなの始めて聞いた。というか、今作った見たいな事だと思った。だって、聖女を名乗るって、召喚されなきゃそれは聖女じゃないわけだし、皆が聖女召喚には立ち会っているというか、顔を知っているから、それはあり得ないだろう。聖女を名乗るって、変装をしていなければ、そもそも名乗ってもバレるだろうって。
矛盾はあった。でも、それが絶対権力だと言わんばかりに、振りかざしてくるものだから、私は何も言えない。呆れてものが言えなかった。よく、この人が、この帝国を治めていたんだって思うぐらい、言葉にするのもあれだけどヤバかった。色んな意味で。
こんな人と、話すだけ無駄だと思ったが、このまま、引き下がったら、負けだと思い、私は続けた。
「ならば、私は何だというのですか」
「混沌の破片から出来た不純物だろう。この帝国に存在してはいけない存在だ。今すぐに、取り払いたいところだが、息子にかけた魔法を解くまでは、いて貰わなければならない。まあ、それが、離れればとける、魔法というのであれば、そうした方が早いだろう」
と、またも、変なことを言われる。
つまり、何が何でも認めなくて、私を追い出したいわけだ。
もう、それでもいいと思った。けれど、それだと、リースを置いていくことになる。この、最低な皇帝陛下の下で彼はずっと苦しめられることになる。それも嫌だ。でも、私は、この人と対峙してしまった以上、もう後戻りは出来ないのだろう。
(混沌のこと……ファウダーのこともよく知らないで、本当に、むかつく)
混沌は不純物じゃない。そもそも、人間がいるからこそ生れた存在で、彼自身は愛されたいだけだった。いや、そんな感情も持っていないかもだけど、誰かに話を聞いて欲しかった、弱い存在だ。触れたら壊れてしまいそうなほど、沢山の人間の感情を抱え込んだ、そんな繊細な存在で。
よっぽど、皇帝陛下の方が、クズだと思う。
「貴様が、何度も繰り返している、愚息との婚約の話だが、その婚約は破棄だ。勿論、正式な手続きも何も踏んでいないだろうから、破棄も何もないだろうが。この場で、婚約破棄を言い渡そう。この場を持って、貴様は、一生愚息との婚約、結婚は出来ぬ」
「……」
そんな、口頭で言ったこと、ひっくり返せるわよ。法律がない限り。
なんて、私は、突きつけられても渚央、強気でいた。この人さえ、どうにか出来れば、後はどうとでもなると思った。まあ、どうにも出来ないのは、この人を見て思っているんだけど。
「じゃあ、誰なら、婚約を許すんですか。認めるんですか。リースが……殿下がそもそも認めないんじゃないですか」
「皇位を引き継ぐまでは、彼奴は私のものだ。子供が決められまい」
「子供って、彼は成人しています。アンタの許可なんてなくても、物事を考えられるんです。そんなことも、分からないんですか」
皇帝陛下に無礼な口を利くな、とヤジが飛んでくる。皇帝陛下が神だとでも言わんばかりに、騎士達は口々に罵倒するので、私は外野には黙っていて欲しかった。
すると、ふと、耳から彼らの声が聞えなくなる。周りを見渡せば、まだ騎士達は何かをいっているようだったが、その言葉は私の耳には聞えてこなかった。陛下の声は聞えるのに、何故だろうと思っていれば、隣にいたラヴァインがウィンクをする。
「余計な邪魔が入らないようにって」
「……あり、がと」
ラヴァインの魔法化って、ようやく思考が追いついて、私は彼に感謝を述べた。これなら、嫌な気持ちに……なるけど、ならなくてすむなあって、馬鹿な事を思いながら、私は、もう一度、陛下を見る。
この堅物は、対処しきれない。
「それに、愚息は、トワイライト聖女と婚約が決まっている。それはもう、帝国民、周知の事実だ」
「なん、ですって……」
その後も、続くように陛下が何かをいっていたが、私の耳は、右から左へとそれが流れていった。魔法で聞えないんじゃなくて、もう意味が分からないって、頭がフリーズしてしまって。
(トワイライトと?周知の事実?)
きっと、トワイライトとリースが結婚するなら、皆喜んで手を叩くだろう。祝福の声を上げるだろう。でも、私だったら……
(違う、そうじゃなくて)
「今日、それを公表した」
「待って……待ってください。それ、それは、トワイライトと、殿下……殿下は眠っているんですよ」
「そんなものは関係無い。私が、この帝国のルールだ。そうやって、この国を支配してきた」
「……イカれてる」
もう、ダメだ。この人。独裁者の次元を越えている。
何で本当にこんな人が、指示されているのか、崇拝みたいなことされているのか分からなかった。こんなの、リースと比べるまでもない、同じ土俵にすらいない。早く、リースに皇位を譲って隠居……隠居する前に、死ねとすら思ったけど……リースに皇位を譲らないのは、帝国民が、あまりリースをよく思っていないのは、皇帝陛下の方のやり方を気に入っているからだろうか。確かに、武力や、圧制とか、軍事国家と言わしめるほどの国だし、そのおかげで、大きな戦争もなくて、平和に暮らせている社会。それでいいって、今のままでいいっていう人は一定数いるだろう。自分たちが支配されていることにも気づかないくらいには、平和ボケしているというか。それは、皇帝陛下あっての幸せだと思っている人がいるのだと。
一種の洗脳だ。
きっと、この顔は、帝国民にはみせていないのだろうけど。こんなの、知られたらおじゃんじゃん、って。
それよりも、トワイライトはこのことを知っているのだろうかと。彼女の、妹の意思も確認してあげたかった。いや、絶対何で? って真っ先に言うだろうし、拒絶するだろうけど。
本来のストーリーだったら、あり得たかもだけど。
「彼女たちの意思は、関係無いんですか」
「聖女と、皇太子が結ばれれば国は安定する。未来永劫な」
「聖女は、役目を果たしたら消えるそうじゃないですか。はじめから、それを知っていてこんなことを」
「こんなことを、だと?自分の立場もわきまえない女だな。偽者め。これまで、良いように動いていたから、目を瞑っていたというのに……心の広い私も、もう我慢が出来ない」
(心が広い?本気で言っているの?)
口に出したかったが、グッと唇を噛んで耐えた。火種はこれ以上作っちゃダメだと。聞えないだけで、騎士達は、私の言葉を拾って、きっとブーイングをいってる。
もう、ダメかも知れない。
ここまで頑張ってきたけど、もう、今回のことで全て打ち砕かれた。心は、大丈夫、折れてない。でも、従わざるをえないかも知れないと。
(これも、エトワール・ヴィアラッテアが、仕組んだこと?)
わからない。でも、その可能性は大いにあり得る。だって、この皇帝、私以外なら、コロッと態度変えそうだし。耳を傾けそうだし。この性格を知っていたら、エトワール・ヴィアラッテアなら、簡単に操れるだろうから。
(ダメだ、全部、無駄じゃん……)
どうにかしようって走ってきた。
何処から始まって、幸せを掴んで、また巻き込まれて。全部それが無駄だって否定された感じで、酷く心が痛かった。
折れないのは、何でかなって思ったけど、きっと隣にラヴァインがいるからかな。どうしてかな、彼のこと、重なっちゃうんだよね。今どこにいるのかも分からない紅蓮の彼に。
(なわけ、ないのに……)
「エトワール・ヴィアラッテ」
「……」
陛下の声が響く。もう、何を言われても驚かない自信があった。
「今日をもって、聖女殿から退去。護衛も、本物の聖女に返すこと。そして、今後一切、我々、愚息含め近付くことを禁ずる。以上だ、出ていけ」
残酷な言葉は、これでもかというくらい、私の心を抉った。