コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
狩野が去ったとしても、彼がこの場に持ち込んだ食材まで消える訳では無い。
コユキと善悪、そして狩野がいた間、動きを止めて只のソフビフィギュアの振りをし続けていたスプラタ・マンユの面々には楽しい食卓が訪れたのであった。
鹿肉を頬一杯に頬張った善悪がコユキに言う。
「ど? ど? うまくいったでござろ? うまうまうま、でござろ?」
「そうね! 鹿肉って臭みが無くて、幾らでも食べられちゃうわよぉ! 本当に善悪! 天才なの? 貴方が噂の天才ですのん? って感じだったわぁ!」
コユキの惜しみない賞賛にも、善悪は己の首を左右に振って、否定の意思を示しつつ更なる言葉を紡ぐのである。
「ふふふ、鹿肉など枯れ木も山の賑わい的なぁ~? マッシュフェスティボォーはここからが本番でござるよ! 刮目(かつもく)せよ! 本日のメインイベンタァーを!」
そう言って善悪が懐(ふところ)から取り出したキノコは、いや、まあ、確かにキノコではあるのであろう。
その姿は、純白の石突(いしづき)に上部の傘が、赤く、うん、何とかエッグ的なプラスチックっぽいマッカチンであった。
横に添える様に同時に取り出して置いてあるキノコは、青紫で、とても食べられる代物には思えなかった……
コユキの、『殺す気なの?』的な表情を無視して善悪は楽しそうにキノコの説明を始める。
「このビビットな赤いのは、『タマゴダケ』でござるっ! 煮て良し、焼いて良し! 美味なる事この上なしでござる! そしてこちらの真紫のヤツは『ムラサキアブラシメジモドキ』でござるよ! これも見た目に反して超美味いでござるよ!」
この発言を聞いたコユキの正直な気持ちは、
――――お前、マジで言ってんのかよ! これ毒だろ? なんだよ? フラグって立てなきゃイケないのかよ? 回収厨かよ、馬鹿野郎!
であった。
その頃、宴の場を後にした、狩野(カリノ)猟師(リョウジ)は、心中に僅(わず)かな戦慄き(わななき)を感じつつ、自分のトラックに辿り着き思うのだった。
――――『魔王』、あの狂熊(きょうぐま)を狩ろうという狂気の狩人が未だこの世に存在していたとは…… 太った女、確か女子だと言っていた筈だが? まあ、あのデブには戦闘力は感じる事は出来なかった、と、言う事は、あれは…… 囮(おとり)…… 『生餌(いきえ)』の類であろう! 見ている限り親しそうに見えたあの二人は、一方は敵を屠る(ほふる)為のみに生きる非情の狩人、もう一方は自身の本願を為すためにのみに生きる端(はた)から見れば哀れな生餌を自ら望んだ殉教者(じゅんきょうしゃ)なのであろうか? 凄まじく恐ろしい…… 私如きが、彼等の戦いに踏み込むべきでは無かったのであろう。 今日は帰ろう、家族の待つ家に、そうだ! 私にはまだ家族がいたのだ…… 帰ろう…… ただ、いっぱしの戦士だと自分自身で思い込んでいた私でも、願う事位は許されるのでは無いだろうか、あの、純一戦士たる太っちょの二人が、かの『魔王』たる、『弾喰(たまぐ)らい』、旧世紀の雑な規制に拠(よ)って生かされた化け物、鉛球(なまりだま)(Pb)を体に受けて、狂い肥大化した狂熊、あの悪魔を相手に、せめて、生きて帰って来て欲しいと願おうではないか!
と……
「さあ帰ろ」
そう口に出して言うと、荷台にジビエを乗せた猟師(リョウジ)は、ピュ――ッと山を後にして懐かしい我が家(二日ぶり)に帰るのであった。