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日が暮れて秋の夜は肌寒さを感じさせた。だが、シェルドハーフェン十六番街ではその寒さも忘れられるような激闘が続いていた。
『血塗られた戦旗』の残党に対する『オータムリゾート』の攻撃は佳境を迎えつつあった。
「明かりを灯せ!俺達の縄張りで派手に暴れた事を思い知らせてやれ!」
『オータムリゾート』幹部ジーベックの指示で、十六番街各所に配置された外灯が一斉に灯されて区画全域を明るく照らす。
現代の市街地に比べればまだ暗い。
しかし松明が当たり前で電気がまだまだ普及していないロザリア帝国では、真昼のような明るさと表現できるものであった。
「なんだこりゃあ!?」
「まるで昼間だぞ!?」
闇に紛れて逃走を図っていた残党達は明るく照らし出された。
路地裏にも外灯は備われており、盗難防止のため細かくパトロールをしていた事もあって彼らの逃げ場を消していった。
「第七分隊そのまま追い込め!第六は東だ!」
レイミが施した訓練は、少数精鋭による対テロ戦を想定したものにこの世界の有り様を盛り込んだものであり、残党掃討戦で威力を発揮した。
六人で構成された分隊に別れて連携を密にし、猟犬のように敵を追い立てた。
レイミは、無線があればまだ良かったと口を溢したが。
大々的な狩りが行われている頃、十六番街と十五番街の境目付近ではもうひとつの戦いが行われていた。
「こんな情報は無かったぞ!この化け物が!」
屋根に飛び移り、走りながら振り向いてリボルバーを放つジェームズは叫んだ。
轟音と共に撃ち出された弾丸は、ジェームズを追い掛けるシャーリィに向かって飛ぶが。
「化け物ではありません。シャーリィです」
ジェームズを追うシャーリィが勇者の剣を薙ぎ払うように振るうと、光の刃が飛来した銃弾を消失させる。
そして刃を消したと思えば。
「ファイアーボール!」
「うおぉっ!?」
柄から飛び出した火球を前のめりになって回避するジェームズ。
「避けないでください」
「ローストされる趣味は無いんでな!」
袖から取り出したナイフを投げるが、シャーリィは再び出現させた光の刃がナイフを消滅させる。
シャーリィは手加減する選択を捨てていた。既に空を飛ぶと言う大事を堂々と実行しており、なによりカテリナ、エーリカを傷付けた事でジェームズを確実に消し去る為に全力を投じていた。
勇者の剣を帯電させて、魔力を解放する。
「サンダーレイ!」
「うぉわぁあっ!?」
放出された電流を、近くの家の窓へ飛び込んで回避するジェームズ。
「逃がしはしません!ブースト!」
自らの身体能力を底上げし、人間離れした脚力で跳躍。
ジェームズが家を飛び出した位置へと先回りを敢行する。
「おや、ごきげんよう」
逃げた先で待ち構えるシャーリィに、ジェームズは顔を強ばらせる。
もし聖奈が居たならば或いはシャーリィを討ち取れたが、彼女は別行動のためそれも望めない。
「コイツは困ったな、勝ち目が見付からねぇ……なっ!」
ジェームズは懐から取り出した瓶を投げる。
シャーリィは当然迎撃しようと動くが。
「こんなものもあるんだよ!」
瓶は途中で割れて、中に入っていた虫を押し潰す。
中に入っていた虫は、アルカディア帝国に生息するライトバグ。大きなテントウムシのようなこの虫の特徴は、危険を察知したら目映い光を発すること。
現代で言うフラッシュグレネードのようなものであり、アルカディアからの密輸品でジェームズの持つ切り札のひとつである。
当然目映い光で視界を奪われたシャーリィは怯む。
ジェームズはそのチャンスを逃さず一気に彼女へ迫った。
「貰った!」
「うぐっ!?」
ジェームズは袈裟懸けに剣を振り降ろし、シャーリィもまた危機を察知して後ろへ跳ぶが間に合わず左肩から右脇腹まで斜め一直線に斬られた。
後ろへ跳んでいなかったら、文字通りその体を真っ二つにしていた斬撃である。
血飛沫があがり、シャーリィは激痛に表情を歪める。それと同時にジェームズは勝利を確信したが。
「っ!?なっ……なんだこれは!?なにがっ!?」
急に身動きが取れなくなり、自分の脚を見てみると自分の両足が地面に固定されるように凍り付いている様が眼に映った。
「お姉さま!」
慌てて周囲を見渡すと、斬られたシャーリィに駆け寄る赤髪の少女を見付けた。記憶を洗いだし、その少女がターゲットの妹であることをすぐに思い出せた。
「っ!レイミ、来ていたのですか」
駆け付けたレイミに満面の笑みを浮かべるシャーリィ。彼女は腰に下げたポーチから液体で満たされた瓶のコルクを噛んで外し、そのまま強引に半分ほど飲み干して、残る半分を自分の傷口へ振り掛けた。
「うぅっ!?」
鋭い痛みに表情を歪めながらも、尻餅をついていたシャーリィはゆっくりと立ち上がる。
今飲んだ回復薬の効果は絶大で、傷口がみるみる塞がっていく。
「まさか、原液を!?」
「はぁ……はぁ……違いますよ、レイミ。身体への負担が高くなるギリギリの濃度で配合してくれたものです。問題があるとすれば、鎮痛効果が無いので物凄く痛い事ですね」
妹を心配させまいと笑みを浮かべるシャーリィ。痛みで冷や汗が流れるが、それでもしっかりと立ち上がる。
「くそっ!なんだそれは!?」
「先ほどの一撃は危なかったですよ、スネーク・アイ。後ろへ跳んでいなかったら即死でした」
「お姉さまを斬った!?万死に値する!」
シャーリィの言葉を聞いてレイミも刀を抜き殺気を向ける。ジェームズも状況が益々不利となったことを悟るが、両足が凍り付いているため身動きが取れない。
「レイミ、やはり殺し屋は早々に始末するべきでした。シスターとエーリカが撃たれました。特にエーリカは重傷です」
「エーリカが!?……後程お話があります、お姉さま。狙撃されたのなら、その理由もご説明します」
「分かりました。その口ぶりですと、逃げた狙撃手は?」
「始末しました」
「上出来です、レイミ。では、スネーク・アイ。貴方は私の大切なものを傷付けました。つまり、敵です」
「くそっ!」
ジェームズは最後の足掻きとして、両手の袖に仕込んだナイフを打ち出し、更に手に持っていた剣を投げ付ける。
「文字通り悪足掻きですね」
だが、それらはシャーリィの前に立ったレイミが悉く刀で払った。
「っ!?」
「では……ごきげんよう」
「さようなら」
レイミがシャーリィと同じように左肩から右脇腹へ向けて一直線に切り裂き、そしてシャーリィが光輝く刃でジェームズを両断した。
スネーク・アイと呼ばれた暗殺者は、自重しないアーキハクト姉妹によって呆気なさ過ぎる最期を迎えたのである。