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#すれ違い
ruruha
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1,997
#一次創作
ruruha
219
生きようと決めた私は今、赤く染まっている。
「海良ー?不破さんが来たんだけ…ど!?」
「そう。すぐ行く」
「いや待て待て待て!なんだその手!」
良祐が私の手からあるものを奪い取る。
「別に自傷行為をしてたわけじゃない。物を壊しちゃって、それで」
「お前…ボールペンを割るやつがどこにいるんだよ!もしかしてその赤ってインクか!?」
酷く動揺しているようで、自分でも状況を理解するのに精一杯らしい。
「血も混ざってるけど、大した量じゃない。プラスチックが刺さっただけだし」
「不破さんには待っててもらうから、まずは手を洗え!」
そう言われて、手を洗っていると事情を聞いた絵里にものすごく怒られた。
「ボールペンって割れるのね。すごい握力だわ」
「割ろうと思ったわけじゃなくて、割れたんです」
「そんなに力んで、何を書こうとしていたの?」
「…それは」
不破さんはそれ以上、何も聞かなかった。
聞いてほしくなかった。人が紙に書くことは、後ろ向きなものも多いから。それをすぐに察知できたということは、本当に彼女はカウンセラーなんだと実感できる。
「今日は学校へは行かなかったのよね。明日はどうしたい?」
嫌な質問をするな、と思った。
今日は学校に行くことは避けたかった。中島さんもそれを無理に咎めようとはしなかった。ただ静かに、わかったと言い、欠席の連絡をしてくれた。
「学校に行きたくないけど、行かないといけないんですよね」
「そんなことないわ。ここには勉強を教えてくれる人がいるし、無理に行く必要はないと思うの」
予想外の答えが返ってきた。学校は、必ず行かないといけないものだと思っていたから。先生から無理矢理押し倒されても、助けを求めようとするほど苦しくなっても、それでも行かないといけないと。
「行かなくて、いいんですか?」
「ええ。好きなようにしていいのよ」
『行きたくない』なんて言葉、私の口からはもう出なくなってしまった。
「紙とペンを借りてもいいですか?」
「?えぇ、もちろん」
口から出なくても、心では思っているから。遠回しになってもこの人はきっとわかってくれる。気づいてくれる。だから、書こう。
「…わかったわ。伝えてくれてありがとう」
それから私は、学校へ行かなくなった。
新しい学校に転入してから1週間が経ち、授業のプリントやお知らせをまとめて貰った。
部屋でそれらを整理していると、良祐が入ってきた。
「お、ちゃんと整理してる。えら〜」
「普通でしょ」
「まぁ、たしかに?」
良祐とはあまり絡んでなかった。3日前ぐらいにボールペンを割り、その時がまともに会話した時だろう。良祐は人懐っこ性格をしているが、何か一線引いたような態度をとる。
絵里から前に聞いた、あの言葉。本当に正しいのなら、良祐はここを誰よりも早く出ていくことになる。
「なぁ、聞いてもいい?」
「なにを?」
「お前が、ここに来た理由」
嫌なことを聞くな…と思った。
「聞くなら、自分から話したら?」
「俺?俺は母さんが再婚して弟ができたから」
予想以上にすんなり答えられたものだからびっくりしてしまった。だが、説明が不十分なことに気がつく。
「いや、それだけで!?」
「弟が生まれて、母さんも父さんも大変だから、落ち着くまではここにいんの」
つまり、弟が最低でも3歳になれば、良祐はここを出ていくことになる。
「良祐はここに何年いるの?」
「5年」
5年。5年?ならもういい頃合いじゃないか。なぜ良祐はいつまで経っても…。
その先は、想像したくなかった。絶対に気づいてはいけないことだと思った。
「母さん、いつ迎えに来るかな。弟にも早く会いたいな」
「そう、だね」
それからは、何も言わなかった。
「よし、次は海良の番だ!なんでここに来た?」
「…私は」
プルルルルっ
良祐のスマホが鳴った。良祐は急いでスマホを手に取り、画面を見た。
あの電話が来てから3日で良祐はここから出て行った。それが、母親が迎えに来たものなのか、それとも施設の移動なのか、私たちにはわからない。でも、良祐のSNSアカウントには、幸せそうな家族の写真がアップされていた。
「良祐くん、急だったけど良かったね」
「そうだね」
良祐のことは喜ばしいけれど、これで鶴のサボりを止める人はいなくなってしまった。いや、転校したのかはわからないからもしかしたら…?
そんなことを考えていると、良祐と会話した、あの時を思い出してくる。
「ここに来た、理由…か」
思い出したくもない。あの日々を。
「何書いてんの?」
「びっくりしたよ、鶴」
「ごめんごめん。で、何書いてるの?」
後ろから覗き込む鶴に、書いていたそれを見せる。
「プロフィール?自己紹介的な?」
「せめて、どんな子かを教えてあげてって学校の先生が」
「へー…ってほぼ白紙じゃん」
「そうなんだよね…」
書き始めてかれこれ30分は経っているものの、名前と誕生日しか書けていない。趣味とか好きなアニメとか、あんまりわからないから。
「特に、この一言みたいな欄1番嫌い」
「あー、わかる。別にないけどって感じだよな」
鶴が紙とにらめっこをしている。鋭い目がさらに鋭くなった。まるで蛇のようだ。
「これ書いたらどうやって渡すの?」
「絵里に持って行ってもらいます」
「せっかくだから行けば?保健室登校でもいいから」
まさか鶴にそう言われるとは思っていなかった。1番言わなそうな人なのに。
「なんで、そんなこと鶴に言われなきゃならないの?鶴だって学校サボってるじゃん」
「サボってるけど俺は最低限行ってる。ちょっとした機会に行っとかないと後々後悔するよ」
「鶴は後悔したの?学校サボってるのに、今の生活でも悩んでなさそうなのに」
言いたくない。止まって。
「私が過去に何があったか知らないくせに、人の人生に土足でつっこまないでよ!」
やめて。お願い。
「私の気持ちなんか、誰にも分からない!!」
言い終わって、ハッとした。鶴はびっくりした顔をして、そのあと、蛇のような目で私を見てきた。その目力の強さに、足が震えた。
私は、また逃げた。
コメント
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うわっ…第4話、読んでて苦しかったです。良祐がすんなり自分の理由を話せたのに対して、海良さんが「言いたくない。止まって」と内心で叫んでるシーン、心がギュッと締め付けられました。鶴との衝突も、あの台詞の重さが痛いほど伝わってくる。ボールペンを割るシーンからずっと、彼女の「生きよう」の裏にある傷が滲んでいて…続きがすごく気になります。