『それは、少女が世界を嫌った故の力だ』
スノードロップの後を付いて歩く。スノードロップ自体が”アシッド教”の教祖代理補佐だからなのかすごい視線が集まる。人気な人なんだな。他の人の音の、そのほとんどが尊敬という音だった。…たま〜にほんの少しだけ恨まれてたけど多分それはスノードロップに対してじゃない。恐らく、”アシッド教”に対して抱いている恨みだ。それでも上っ面だけは尊敬しているように見えるのだから取り繕うのがなんて上手なんだろうなと感心すらしてしまう。
…この後、私はどうなるのだろうか?死ぬのかな。それならまだいいけど罪とか問われたら質疑応答が面倒この上ないからやめて欲しい。人と話すのは苦手なんだよ。そこまで事を大事にする…訳無いと信じたい。いっその事恨みとかで殺された方が楽でいい。何も考えなくて済む。1番面倒なのは何が悪かったのか自分で考えて答えを当てるまで見つめられることだ。何故か分からないけど、1番苦手だ。その答えが正しいとは限らないのに。答えなんて人の数あるだろ。それぞれ信じているのが違うのだから。故にそれを個性って言うんじゃないの?
……あれ、何考えているんだろ。凄く、無駄なことのような気がする。人生を捨てた私が、人生について考えているの?人を殺した私が、人について考えているの?人に恨まれている私が、人に救いを求めているの?え、私馬鹿なのかな?馬鹿確定だ。こんな無駄なこと考えてたの。
人生、なるようになるだろ。それを人間如きが考えるなんて、知ったような事を言うなんて、馬鹿なんてレベルじゃないな。
歩いていくと、段々人気のない場所になってきた。薄暗くて、やけに空気が重い。
「さて、ここまで来れば大丈夫ですわ。なにか、聞きたいことなどはありますか?出来る限り、お答えさせていただきますわ」
…さて、どうする?信じるか、信じないか。ここまで付いてきてしまったのだから信じるのもアリだけど如何せん怪しすぎる。私これからどうなるんだ?…というより、なんで私の目的を知っていたんだ?まずは、それから質問してみようかな。
「…なんで、私の目的を知っていたの?指名手配の内容には”貴族殺し”としか書かれていなかった。元人間の国の、四人の貴族様なんて私は言ったこともないし噂でも聞いたことがない。どこから漏れたの?」
「…そうですわね。実は、貴女様が初めに殺した貴族様はアシッド教の管理下にあった貴族なのですわ。それで、調べていく内に”教祖代理”様が教えてくださったのです。なので、わたくし達はどうやって知ったのかを知らないのです。”教祖代理”様も話そうとはしませんでしたから」
教祖代理が?…どんな人物なんだ?そもそも、教祖代理ってなんだ?教祖は別にいるのか?それに、そんな人物を信用して大丈夫なのか?
「教祖代理って何?本当の教祖を知らないのに代理を信じているの?」
「それは…ご最もな意見ですわね。実の所、わたくしのような補佐でも、アシッド教の司令塔でも、本当の教祖様を知らないのですわ。教祖代理様はなにか知っているようでしたが…。まぁ、話さないということはわたくし達に関係の無いこと、ということですから。わたくし達も気にしていないのですわ。あと、そうですね…。信用に関しては、あるに決まっていますわ。何を隠そう、”アシッド教”教祖代理様こそが、この世界の”調停者”様ですから。信じるな、という方が難しい話ですわ」
…?同一人物ってことか……?それは…まぁ確かに信じるな。…じゃあ陰りの段位ってなんなんだ?教祖代理と調停者が同一人物ならその陰りの段位もアシッド教の者、ということになるのか?
「陰りの段位って何?そいつらもアシッド教の人ってことになるの?」
「そうですわね……。それに関しては、少し複雑なのですわ。まず、アシッド教と調停者様は別の物として捉えていただきたいですわ。アシッド教には、アシッド教の者がおり、陰りの段位は調停者様の専属部下をしております。基本的には調停者様のみ命令が可能です。そこでは、身分は何も関係ない。そこにあるのは、世界からの特別な愛を受け取った、特段世界から愛された人物のみですわ。わたくし以外にも、もしかしたら会ったことがあるのではないのですか?ほか、なんか存在感が薄い人とか……。元人間の国の、お姫様と騎士様とか?」
……なるほど。不思議な音がしている人の殆どは、その陰りの段位の人間だったってことか。つか、存在感薄いとか暴言だろそれ…。
「さて、着きましたわ。お話はここら辺で終わりに致しましょう。中へどうぞ。皆様が待っていますわ」
そう言われふと上に見上げて、ぞっとした。綺麗な、小さい城みたいな感じ。アシッド教の教会でも無く、王族が住むような所でもない。どこか、不思議な感覚がする所だった。中に入ると、調停者がいる。この世界の、頂点が、そこにいる。
気合い入れろ。ここから先は、戦場だ。私の生死を賭けた、そんな命の恐怖を、今だけは見て見ぬふりをした。
コメント
3件
最初の方読んでると蒼音さんは「人生を捨てた」なんて言ってるけど、本当は人生、命について誰よりも深く考えているんだろうなって思った……多分、本人には自覚がないのかもしれないけど…… 蒼音さんの質問に丁寧に答えていくスノードロップさんが優しすぎる!!流石スノードロップさん🤭💭 つ、ついに"調停者"様と蒼音さんの対面……!!うわああ、ドキドキする……😖✨