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カフェを飛び出した恵菜は、ペデストリアンデッキへ繋がる階段の前で立ち止まると、紫紺に染まっている空を見上げた。
(悔しい……。すごく…………悔しい……!)
離婚の原因も、良子から見れば、全て自分が原因になっている。
恵菜が太っていたから悪いのだ、と言わんばかりに。
あの頃、減量するために、できる限りの事をしたけど、それでも痩せなかった。
涼しげな目元がピリピリと痺れ、熱くなってきたと思うと潤んでくる。
空には上弦の月が浮かんでいるけど、視界が滲んでいるせいか、歪な形に見えた。
『心がキツいなって感じたら…………いつでも連絡して構わない』
ふと、純が湘南へドライブに連れて行ってくれた時に、言ってくれた言葉を思い出す。
恵菜は、顔を俯かせた後、バッグからスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを立ち上げた。
彼のIDを表示させ、メッセージ入力のアイコンをタップし、『お疲れさまです』と入力したけど、指先がピタリと止まってしまう。
(私の過去の事で……谷岡さんに愚痴ったら…………迷惑だよね。ただでさえ、谷岡さんには助けてもらったし、迷惑掛けているんだし……)
恵菜は入力した文字を全て消去し、メッセージアプリを閉じると、スマートフォンをバッグの中に捩じ込んだ。
「はぁ…………」
俯いたのはいいけど、足が泥沼に埋もれているように、その場から動けない。
フラッシュバックしていく、かつての姑が放った、刃のような言葉。
恵菜の心に向かって深く突き刺さり、容赦なく抉っていく。
足元の石畳に、少しずつ増えていく、雫の滴る跡。
「何で…………? 離婚……したのに…………!」
恵菜は悔しさとやるせなさで、ギュッと瞳を閉じると、抑え込んでいたものを吐き出すように、涙の痕跡が頬に幾筋も浮かんだ。
行き交う人々が、彼女をチラリと見やり、通り過ぎていく。
遠くから眼差しを送り続けている濃紺の影に、恵菜は気付くはずもなく、崩れ落ちた。