通常の業務を終えた後、純は報告書作成のため、一時間の残業を余儀なくされた。
(やっと帰れる。報告書作成ほど嫌な仕事はねぇな……)
ロッカールームで作業着からスーツの上着に着替え、スマホをスラックスのポケットから取り出すと、メッセージが受信している通知。
(おっ……恵菜さんからじゃん)
アプリを開くと、何気ない彼女からのメッセージに、頬が緩む。
『お疲れ様です。お昼に見た谷岡さんのスーツ姿、すごく新鮮で素敵でした……!』
「ヤベェな……マジかっ……」
誰もいないロッカールームで、ニヤけながら独りごちる純。
今日は金曜日。
帰宅したら、恵菜にデートの誘いのメッセージを送ろうか。
純は昂る気持ちを抑えながら、職場を後にする。
通行許可証を警備員に提示しながら、ファクトリーパークの正門を通り抜け、モノレールの線路下にある遊歩道から立川駅へと向かった。
(あれって…………恵菜さんじゃないか……?)
ペデストロディアンデッキへ通じる階段の前で、女性が天を仰いだまま佇んでいるのが見えた。
肩までの長さの髪に、髪を緩くうねらせているヘアスタイルの女性は、見間違えるはずがない。
昼休み、毎日のように見ている女性、相沢恵菜だ。
純は歩みを止め、彼女の様子を遠目から伺う。
しばらくの間、空を見上げていた恵菜が次第に俯き、肩を震わせているように見えた。
「恵菜さん!」
不自然に地面へしゃがみ込んだ瞬間、純は彼女の元へ駆け寄る。
恵菜が彼の声に気付き、おずおずと顔を合わせると、クールな奥二重の瞳が丸みを帯び、狼狽した。
「たっ…………谷岡さ……ん……」
「大丈夫か!? 気分が悪くなった?」
純は恵菜の顔を覗き込むと、薄闇に映し出されるエキゾチックな表情が濡れている。
(…………彼女……泣いていた……のか?)
なぜ彼女は泣いていたのか、彼は恵菜に聞きたくて仕方がない。
だが、理由を聞いたとしても、彼女は答えないと見た純は、彼女に付き添うしかできなかった。
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