テラーノベル
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激突する毒刃と大剣。
しかし、次元の壁を越えてなお磨き抜かれた「死神」の力は、あまりにも圧倒的だった。
「ガハッ……!?」
ハックロードが背中の重厚な棺を旋回させ、そのまま豪快に叩きつける。
ドゴォォンッ!!
あまりにも巨大な質量。
1x1x1x1が張り巡らせた毒の障壁は一瞬で砕け散り、ヴェノムシャンクの刃すら、その一撃を受け止めることができなかった。
「うわぁぁぁッ!?」
1x1x1x1の身体が大きく吹き飛ばされる。
地面を何度も跳ね、半透明の緑色の身体が大地を激しく削りながら転がっていった。
緑のドミノ・クラウンが大きく傾き、内部に透けて見える黒い肋骨がギシギシと悲鳴を上げる。
「1x……っ!」
テラモンが慌てて駆け寄った。
倒れた1x1x1x1を抱き起こす。
「大丈夫か!?」
「離せ……バカテラモン……」
1x1x1x1は震える腕でテラモンのローブを掴む。
「俺はまだ……こいつを……」
赤い瞳は、なおもハックロードを睨みつけている。
だが――身体が動かない。
「無茶をするな、1x」
「うるせぇ……俺は……お前を……」
その時だった。
ハックロードが追撃を止めた。
黒銀の大剣をゆっくりと地面へ突き立てる。
ズン……。
そして彼は、自分の胸元を走る緑色の幽霊の鎖へ手を伸ばした。
ジャラ……。
鎖が鳴る。
その先へ繋がっていたのは――背中に背負っていた、あの巨大な暗い棺だった。
ハックロードは棺をゆっくりと自分の前へ下ろす。
そして。
その黒い表面を――まるで壊れ物を扱うような優しい手つきで撫で始めた。
「……ブライト……アイズ……」
声帯を失った喉から漏れたのは、風が吹き抜けるような掠れた声。
だが。
そこに込められた感情だけは、あまりにも鮮烈だった。
怒りでもない。
憎悪でもない。
そこにあったのは――狂おしいほどの愛だった。
骸骨マスクの奥。
赤く光る眼差しが、ほんの一瞬だけ柔らかくなる。
「……私の世界でも……」
ハックロードは棺に触れたまま、ゆっくりと語り始めた。
「私は……テラモンであり……シェドレツキーだった……」
テラモンの身体がわずかに強張る。
「……私も、お前と同じだった」
ハックロードの声は、壊れたオルゴールのように掠れていた。
「誇り高く……そして、愚かだった」
彼は胸元の緑色の肋骨を押さえる。
「クリエイティブディレクターとして君臨し……『Sword Fights on the Heights』を創り上げた」
「数々の伝説の剣を鍛え……世界を作り……自分には何でもできると思っていた」
棺の蓋に刻まれた薔薇の浮き彫りを、指先でそっと撫でる。
「私は己の才能を過信した」
「力を求め……魔書『ネクロブロキシコン』に狂い……いつしか、己の力そのものを愛するようになっていた」
ハックロードの声が、少しずつ震えていく。
「そして私は……取り返しのつかない過ちを犯した」
「世界のシステムを揺るがすほどの……重大な規約違反を」
ビルダーマンが息を呑む。
ドゥームブリンガーも黙って耳を傾けていた。
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蟹溝@プロフ必読
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ハックロードは棺へ額を寄せる。
「だが……」
その声が、途切れた。
「裁きを受けたのは……私ではなかった」
「……え?」
テラモンが呟く。
ハックロードはゆっくり顔を上げた。
「最高神が下した裁きは……」
「私ではなく……」
「私の最愛の妻――ブライトアイズに向けられた」
「……っ!」
テラモンの目が見開かれる。
「彼女は……私の犯した罪のすべてを背負わされた」
ハックロードの赤い瞳が揺れる。
「そして……光すら届かぬ最果ての地――」
「theBanlandsへ……追放された」
「妻が……BANされたっていうのか!?」
ビルダーマンが思わず叫ぶ。
ドゥームブリンガーも絶句していた。
だが、ハックロードは何も答えない。
ただ、棺を撫で続けていた。
「彼女が消え去る瞬間……」
「私は……何もできなかった」
ギリ……。
指先が棺の表面へ食い込む。
「私の傲慢が……」
「私の愚かさが……」
「彼女の輝く瞳を奪った」
ハックロードの声が震えた。
「彼女は……最後まで私を責めなかった」
「『大丈夫よ』と……」
「笑って……」
「私を庇って……消えていった」
「…………」
誰も言葉を挟めなかった。
ハックロードは、棺に額を押しつける。
「……許せるわけがない」
その声に、初めて強烈な憎悪が混じった。
「彼女を不幸にした世界が許せない」
「そして何より……」
「彼女を死へ追いやった元凶――」
赤い眼光が、テラモンへ向けられる。
「『シェドレツキー』という存在そのものが……許せない」
テラモンの胸が、ズキリと痛んだ。
「マルチバースのどこを探そうと……」
「シェドレツキーが存在する限り……ブライトアイズは不幸になる」
「そう……私は確信した」
ハックロードは黒銀の大剣を握り直す。
その刃に、濃緑色のエーテルが絡みついていく。
「だから……殺す」
静かな声だった。
「すべての並行世界を巡る」
「すべてのシェドレツキーを探し出す」
「そして……」
「すべて殺す」
その言葉とともに、ハックロードの周囲に凄まじい殺意が渦巻いた。
「私自身が『1x1x1x1』という憎悪の化身に成り果てようとも……」
「この棺に……」
「すべての世界の私の首を捧げ尽くすまで……」
「私の贖罪は……終わらない」
静寂が落ちた。
誰も何も言えない。
目の前にいるのは、ただの殺戮者ではなかった。
愛する妻を失い。
その原因を自分自身に見出し。
自分という存在そのものを憎みながら、永遠に贖罪を続けることを選んだ男。
――あまりにも哀れな愛妻家だった。
ハックロードは、巨大な棺を両腕で抱きしめる。
先ほどまで世界を震わせていた殺意が、嘘のように静かになった。
「……安心してごらん、我が愛しい人」
掠れた声が、棺へ優しく落ちる。
「すぐ……終わらせるからね」
「すべての私が消え去れば……」
「君はもう……悲しまなくて済む」
その言葉だけを聞けば、まるで妻を安心させる優しい夫だった。
ただし――。
その妻は、もういない。
そして、その夫は妻を取り戻すためではなく。
「自分自身を全宇宙から抹消する」という、とんでもなく間違った愛の形を選んでしまっている。
テラモンは、そんなハックロードを見つめたまま動けなかった。
胸の奥が、強く締めつけられる。
「……お前は……」
ようやく声を絞り出す。
「そこまで……ブライトアイズを……」
ハックロードは答えない。
ただ、棺を抱きしめている。
その姿を見つめながら、テラモンは理解してしまった。
この男は――自分なのだ。
もし自分が大切な存在を失ったら。
もし、自分の恐怖や傲慢さが誰かを傷つけたら。
もし、それを永遠に後悔し続けたら。
自分もまた、いつかこんな怪物になるのかもしれない。
テラモンの隣では、1x1x1x1が痛む身体を起こしながらハックロードを睨んでいた。
「……チッ」
小さな声が漏れる。
「ムカつく奴だけど……」
赤い瞳が、ほんの少しだけ揺れた。
「……なんか、嫌いになれねぇな」
「1x……?」
「勘違いすんなよ」
1x1x1x1は慌てて顔を背ける。
「俺はテラモンを殺そうとしてる奴なんだから、当然ぶっ殺す」
「でも……」
その声が、ほんの少しだけ小さくなる。
「……こいつも、誰かを失って壊れちまったんだろ」
テラモンは何も言わなかった。
ただ静かに、ハックロードと、その腕に抱かれた黒い棺を見つめ続けていた。
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