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32 - 第29話「10のこわい話」

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2025年07月29日

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第29話「10のこわい話」
「……10こ、話せる?」


ユキコがそう言ったのは、寝る前だった。

お泊まりの夜、雨もふらず風もない。

外からは虫の音がかすかにするだけだった。


ナギは布団の中で、天井を見ていた。

天井にはひびがあって、そこからふるい夜の気配が垂れてきていた。


ナギはTシャツのまま、目をこすった。

服はクリーム色で、ところどころに何かのシミがついていた。

ユキコのおばあちゃんの家で借りたものだ。

下は、誰かが昔はいていたパジャマのズボン。ゆるくて、片足だけ裾を踏む。


ユキコは隣の布団にいた。

着ていたのは白地にうす桃の花が咲いた寝間着。

髪はまだ乾いておらず、枕にしっとりと貼りついていた。


「10こ……こわい話?」


「うん。ナギちゃんのなかの、“ほんとにこわいもの”を、10こ」




1こめは──

「自分の声を録音で聞いたとき、誰かの声に聞こえたこと」


2こめは──

「夜、家族がぜんいん寝てるはずなのに、階段の音がしたこと」


3こめは──

「教室で名前を呼ばれて、返事をしたら“ちがう”って言われたこと」


4こめは──

「おぼえてないはずの夢の続きを、別の夜に見たこと」


5こめは──

「“元に戻れなくなる”という言葉を、誰かに言われた記憶があること」


6こめは──

「ずっと一緒にいたぬいぐるみが、ある日“顔がちがう”と感じたこと」


7こめは──

「ひとりごとを言ったつもりが、“うん”って返事が返ってきたこと」


8こめは──

「鏡に映る自分が、ほんの少しだけ“遅れて”動いたこと」


9こめは──

「もう会えないと思っていた人に“また会えるよ”と言われたこと」


10こめは──

「ユキコの顔が、たまに“誰かを重ねているように見える”こと」




話し終えたとき、ユキコは笑っていた。

でもその笑顔は、泣きそうなときにしか見せないものだった。


「……わたしの、10こも話す?」


ナギは首をふった。


「いい。きっと、わたしの知ってるものばっかりだと思うから」


しばらく、ふたりは黙っていた。

天井からなにかがこぼれそうな夜だった。

言葉じゃなく、気配の粒が降ってくるような。




スタンプ帳の今日のページには、

丸いスタンプが10こ、並んでいた。


ひとつだけ、上下が逆さまだった。

それはたぶん、“ほんとうのこわい話”だったのだと思う。

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