えっ? とか、ん? しか言葉が出ない。す、住む? ここに?
「えっと、でも、その、それは、篤人と一緒にってこと?」
「当たり前。なんで花音だけで住むの」
「あ、はは。そう、だよね」
ドキドキと鼓動が早くなる。
「職場だと、細かい話がしにくいし、一緒に住むなら打ち合わせもしやすいと思ったんだけど」
「……うん」
「なんか、美濃さんがそのうちそっちの家に行きそう」
「あー……」
一人暮らしのアパートは、セキュリティがないわけじゃないけどもちろんここには劣る。
「晩ごはん一緒に作ろう? 俺が作ってもいいし」
「えっ、作ってくれるの?」
「いいよ、料理は好きだから」
家賃は? 光熱費は? 家事は? なんて現実的な話題も、出さなくていいとか、俺がやるとか、一緒にやろう? とその甘い蜜に引き寄せられる。
「契約満了まで?」
「んー……」
期間はおいおい、と篤人が言う。
迷惑はかけたくない。うまくいきそうなら早めにアパートに戻るようにしよう。復讐計画遂行中はこの家にいさせてもらったほうが、自分も安心だし、綿密な計画を練られるのならありがたい。「……篤人、しばらくここにおいてもらえる?」
「そうこなくっちゃ」
「じゃあなるべく早く荷物持ってくるね」
「別に今日からでも住めるんじゃない?」
「へ?」
下着も、服も多少は置いてあるでしょ? と言われ、ごくんと唾を飲む。
確かにこのまま住もうと思えば住めそうな状況。ずいぶん篤人の家に荷物が増えていたことに気付く。
「あの、でも……明日、荷物ちゃんと取ってくるね」
「一緒に行くよ」
「ありがとう」
スーツケースに二、三日分過ごせる分だけ持ってくれば、週末にまた取りに行ってもいい。
どれだけの期間、ここにお邪魔させてもらうかなんてわからない。少しの期間だとしても、篤人との契約を遂行できるようにしたいとも思う。
「夜のサブスクは、週末だけじゃなくて、|したいとき《・・・・・》に変更してくれる?」
篤人が首を傾げ、ローテーブルに肩肘をついてそう訊ねる。
「し、したいとき?」
「うん。もちろん、花音がしたい時も、言って?」
「うん……」
一緒に住むようになったら、|契約《セックス》の頻度が増えるのかな。そう思っただけでお腹の奥がじんっとしてくる。週末だけじゃなくて、平日も抱かれる、その予感に体が疼く。
身体は間違いなく、篤人の熱や形を覚えてしまった。契約満了になったら、わたしはいったいどうなるんだろう。「そのモニターも参加する会議がターニングポイントかな」
「うん」
「なんかうまい方法考えとく」
篤人はそう言うと、私の頬をすっと撫でる。
「俺に任せて」
「う、うん」
「心配?」
ふるふると頭を振る。心配や不安がまったくないわけじゃない。でも篤人が一緒にいてくれるのなら怖くない。
本当は、篤人が契約満了でいなくなるのを恐れている。この関係が終わるのが怖いのだと、心の底の底にある気持ちが少しずつふわふわと浮いてくる。
篤人は私との|行為《セックス》が目的なのだし、ドライな関係を求めている以上、私の気持ちを打ち明けたら、この契約も終わりになるのかもしれない。
せめて、この契約が満了になるまでは篤人の彼女でいたい。一緒に住んで、デートして、抱かれて、幸せな気持ちに浸りたい。
この気持ちに名前をつけたら、途端に苦しくなるだろう。契約満了への恐怖、くらいの方が辛くないかもしれない。
何も考えずに、ただ篤人のそばに居たいと伝えたい。でもそれはすべてが終わってからだ。
床に落としていた目を、彼のまっすぐな瞳に向ける。
すっと近づいてきた彼のキスを受け入れると、ソファに押し倒された。
私の後頭部に添えられた彼の手。ぐっと首に腕を回して引き寄せると、キスが深くなる。「あつ、と」
「ん? なに?」
キスの合間に彼に問いかける。
「抱いて?」
「……うん」
「篤人でいっぱいになりたい」
「ちょっ……」
何言ってるの? と言われて、その気持ちを口にしそうになる。
明かりの下、ルームウェアのトップスをめくりあげられて、あらわになった胸の先を彼はピンと跳ねる。
「んんうっ……」
「いつからこんなにしてたの? 触る前から硬くなってたみたいだけど?」
「わかんなっ……あんっ!!」
くりくりと胸の先端をつままれると、甘い刺激に、身体が震えた。
「かわいい」
「あんっ!! あっあっ……」
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