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​第三章:ズレた魔法理論と、不本意な『ズレノヴィア王国』

建国​黒騎士アルフレッドとウェアウルフを配下に加えた悠真は、廃墟を拠点として奇妙な共同生活を始めることになった。

​アルフレッドは悠真を「陛下」と呼び、ウェアウルフは「ご主人様」と呼んで崇拝している。悠真は毎日、「僕は陛下なんかじゃないし、君たちの方が何百倍も強いんだよ」と訂正を試みるのだが、二人は「謙遜もまた王の美徳!」と一切聞く耳を持たない。

​「はぁ……。どうしてこうなっちゃったんだろう」

​メガネの奥の瞳を曇らせ、悠真は森の奥で途方に暮れていた。

​その時、廃墟に一人の女性が飛び込んできた。長い金髪を風になびかせ、鮮やかなローブを纏っている。

​天才魔導師セレス。彼女は世界でも五指に入るほどの魔力の持ち主であり、魔導理論の権威だ。

​セレスは、悠真を見るなり、目を輝かせた。

​セレス:「貴方が、あのゴブリンを、そしてベヒーモス級の魔物(ウェアウルフ)を、触れることなく、そして魔法の痕跡を残さず消滅させたという超越者ですね!?」

​悠真:「え? ゴブリンは僕が空振りパンチを……。ベヒーモスは、僕が怖くて動けなかっただけで……」

​セレス:「やはり! **『無の力(ゼロ・フォース)』**の使い手! 既存の魔導理論を完全に超越した、新次元の術者!」

​悠真の言葉は、セレスの熱狂的な解釈によって完全に上書きされた。彼女は、悠真の「的外れなパンチ」や「恐怖で固まった威圧感」を、この世界には存在しない**「究極の魔法」**と誤認したのだ。

​セレス:「お願いです、陛下!私を弟子にしてください!あなたの**『ズレた魔導理論』**を、このセレスに伝授してください!」

​悠真:「(なんで皆、僕のことを陛下とか師匠とか呼ぶんだ……!?)」

​こうして、悠真の配下には、剣の達人アルフレッド、最強の魔物ウェアウルフ、そして魔導理論の天才セレスという、チート級の三本柱が揃ってしまった。

​事態はここから、さらに悠真の意図しない方向へと進展する。

​アルフレッドは「陛下が安らげる場所を」と、廃墟をたった一人で数日で改装し、清潔な住居へと変貌させた。セレスは「陛下の偉業を知らしめるべき」と、周辺の村々に悠真の存在を喧伝した。

​その結果、魔王族の圧政に苦しむ近隣の民たちが、「魔王すら平伏させる新しき王の元へ」と、廃墟の周りに集まり始めた。

​「陛下、どうか我らを魔王の圧制からお救いください!」

​「陛下のお力があれば、必ずやこの土地に平和が訪れます!」

​悠真は、戸惑いながらも、民の瞳に映る「いじめられている者」特有の絶望の色を見て、胸が痛んだ。

​(僕と同じだ。誰かに怯えて、希望も持てずに生きている……)

​悠真は、自分が高校時代に味わった苦しみを重ね、無力ながらも何かしたいと思った。

​悠真:「えっと、じゃあ、とりあえず、みんなが快適に暮らせるように、環境を整えようか……」

​この一言が、**『ズレノヴィア王国』**建国の決定打となった。

​アルフレッド:「さすが陛下!まずは内政から固められるのですね!」

​セレス:「ええ、世界を統べる王は、民の生活を第一に考える!これこそ至高の理念!」

​配下たちの勝手な解釈と、民衆の熱狂的な支持により、廃墟の周りにはあっという間に人が増え、一つの小さな国が形成された。

​国名:『ズレノヴィア王国』。

​悠真は、この国がどういう意味を持つのか知る由もないが、とりあえず自分が快適に暮らすために、現代の知識を使った発明を始めることにした。

​「まずは、やっぱりお風呂だよね。毎日、ちゃんと温かい湯船に浸かりたい」

​悠真は、セレスに指示した。

​悠真:「セレス、えっとね、水を温めて、それを溜めておける場所を作ってほしいんだ。煙突でちゃんと換気できるようにして、薪を燃やすボイラー的なものを……」

​セレス:「(な、なんと!これが**『究極の生活魔導』**!蒸気と熱効率を極限まで高めた、未だかつてない衛生システム!)」

​数日後、ズレノヴィア王国の中心には、蒸気を上げる公衆浴場が完成した。

​魔王族の支配する世界では、水浴びは贅沢で、風呂の概念すらなかった。初めて温かい湯船に浸かった国民たちは、涙を流して感動した。

​「ああ……疲れが取れる。これこそ、真の文明だ!」

​悠真は、自分の欲望(清潔な生活)を満たしただけなのだが、国民からは「清潔革命を起こした賢王」として、さらに崇拝されることになった。

​こうして、いじめられっ子の佐倉悠真は、自分の「快適に暮らしたい」という私欲と、それを「世界の真理」と誤認する配下たちによって、不本意ながら一国の王となってしまったのだった。

​次章、移動革命と、魔王族との不本意な遭遇へ。

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