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Greed 3
19時30分。
モートとオーゼムは閉店時間を30分過ぎた「グリーンピース・アンド・スコーン」の店の前にいた。空は美しい白い月が天幕の隙間から輝きを増していた。
「狩りの時間だ……」
モートはそう言うと、隣のオーゼムを置いて店に走り出した。
Greed 4
「一体! 誰の差し金なんだ!」
ヘレンは銃を持った男たちによって、地下のパン粉が床に広がった一室で拘束されていた。身動きができないほど、多くの銃が向けられていた。
その中にはリボルバーやトンプソンマシンガンなどもある。
「知らないわ! ただ、私はグリモワールを図書館へ返してほしいだけなの! 落ち着いて! 本の行方と共にジョン・ムーアという人から聞いただけなの!」
「ギルズのボスの名を知っている奴は、サツか対抗組織の差し金しかいねえんだよ!」
別の一人が吠えた。
「もう撃ってしまおう! 誰だかわかんねえがその方が早いぜ!」
ヘレンはただ混乱する心を落ち着かせるようにして、ギュッと目を閉じた。
瞬間、パーンという破裂音が数発した。
ヘレンはその轟音に耳を塞いで、うずくまった。
けれども、ヘレンは痛みもなく。身体に異常は全くなかったように思えた。
その銃声に、何が起きたのかと恐る恐るゆっくりと目を開けて見上げてみると、視界には首なしの死体が大勢突っ立っていた。
「モート……!?」
男たちの弾丸はあらぬ方向へと発射されていた。ヘレンの立つ部屋の中央からはほど遠い。後ろの天井近くの壁に複数の弾丸による穴が空いていた。
「ヘレン。もう、大丈夫だよ」
目の前には、おびただしい血のりのついた銀の大鎌を持ったモートが静かに立っていた。
ヘレンは感極まってモートに抱き着いた。
「……ああ……モート……」
「あれ? ヘレン? この連中の親玉はここにはいないのかい? あの男たちから何か聞いているかい? 黒い魂が一つ足りないんだ……」
ヘレンも首なしの男たちのライトに照らされた周囲を見回しては、親玉であるギルズはいなかったと答えた。
それを聞いて、がっかりとしたモートにヘレンは連れられ部屋の外へと出た。床一面に積もったパン粉には、恐ろしいまでの量の血のりが付着し、突っ立っている死体はそのままにした。
鉄筋コンクリートの壁が連なる通路をつたうかのように、地下から外へと出ようとしていたヘレンは、何か奇妙な感覚を覚え壁に空いた穴を発見した。穴は深く。深い闇だった。そして、遥か下方へと続いている。
さすがに怖くなってヘレンは傍のモートに聞いてみることにした。
「モート。ここは地下一階だけど……まだ更に地下があるみたい……そこには……きっと……」
「ギルズか?」
すぐさまモートは大鎌を持ち直し、鉄骨の間にあるその穴を奥へと歩きだして行った。
ヘレンには遠い声でオーゼムを探してくれとだけ言った。
ヘレンは奇妙な感覚を持ちながら、オーゼムという人物を探しに一階への階段を探した。
パンの匂いが強くなるほど、地上に近づいているとヘレンは思った。
数メートル歩くと。
オーゼムという名の男は、すぐに見つかった。
一階へと上がる木製の階段付近に立っていたからだ。
オーゼムは、すぐにこちらに手を振って「私はオーゼム・バーマインタムという名の男です。モート君の友人です」とニッコリと自己紹介をした。
しかし、「いや……これは……?」急にオーゼムは険しい顔付きになって、薄暗い地下の奥へと目を向けた。
途端に、ドン! という強い衝撃音と共に、地下全体が激しく揺れだした。
奇妙な複数の足音が少しずつ近づいてくる。おぞましさをも覚えるその足音の群れは、例えるなら何らかのカサカサと動く。そう、昆虫の足音だった。ヘレンは後ろを向いて悲鳴を上げた。
その足音の主は、大蜘蛛の大軍だった。
「これは……マモンの書からの召喚!」
オーゼムが叫ぶと同時に、モートが目にも止まらぬ速さで走ってきた。銀の大鎌で複数の大蜘蛛に致命傷を負わせる。
「オーゼム! 何が起きたんだ! ギルズが何かの本をかざしていたら……あの大蜘蛛の大軍が現れた! 黒い魂ではないけど、狩りの対象なのはよくわかる!」
大蜘蛛の大軍は、鉄骨を楽にへし折り、天井まで壁を走りだし、店の外へと雪崩れ込もうとした。
「ここは、商店街です! モート君! 早くに大蜘蛛を全て狩ってください! 大勢の命が失われます!」
モートは一階へと続く階段を駆けだして外へと飛びだした。
外へでると、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
至る所で、人々の悲鳴や怒号が鳴り響く。
「グリーンピース・アンド・スコーン」のパン屋からワラワラと這い出てくるおぞましい大蜘蛛の大軍は、人々を次々と捕食していった。
モートにとっては、生まれて初めての光景だった。
すぐさま、銀の大鎌を振り。真っ白な蜘蛛の糸でグルグル巻きになっていた近くの青年を助けだした。
「この世の終わりだ!」
銀の大鎌で蜘蛛の糸を全て切断すると、自由を取り戻した青年はそう叫んでどこかへと走り去って行った。だが、別の大蜘蛛に捕まり、頭から齧られ絶命した。
モートはこの惨状をどうしていいかわからなかった。