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スタートヽ(*^ω^*)ノ
◉キヨ視点◉
それからのレトさんは、まるで別人のように変わってしまった。
あれほど「好き」で溢れていた部屋は、
今では必要最低限のものだけが置かれた、無機質な空間になっている。
フィギュアも、本も、こだわりも――
まるで最初から存在しなかったみたいに、綺麗さっぱり消えていた。
感情も、ほとんど表に出さない。
笑っても、どこか作り物みたいで、
目の奥が、いつも静かに曇っている。
そして――
隣にいるのは、クソみたいな男。
恋人だと、レトさんは言っているけど、
俺にはどうしても、そうは見えなかった。
レトさんの言葉を遮って、
意見を決めつけて、
「それでいいよね?」と、逃げ道を塞ぐような話し方。
レトさんは、逆らわない。
逆らえない。
ただ、曖昧に笑って、頷いて、
まるで感情を削り取られた人形みたいだ。
――違う。
こんなの、レトさんじゃない。
悔しさで、手が震えた。
拳を握りしめても、何も変えられない自分が、情けなくて。
せっかく、生きていてくれたのに。
俺が命をかけて守ったはずなのに。
『……これじゃ、全然幸せそうじゃないだろ……レトさん…』
声に出しても、レトさんには届かない。
レトさんは、もっと笑う人だった。
好きなものを語るとき、
目を輝かせて、止まらなくなる人だった。
俺の前では、
泣いて、怒って、甘えて――
ちゃんと、生きていた。
なのに今は、
暗い影に隠れるみたいに、
自分を小さくして、息を潜めている。
守れたと思っていた。
それで、全部終わりだと思っていた。
――でも、違った。
生きているだけじゃ、足りなかった。
「幸せ」でいてくれなきゃ、意味がなかった。
俺は、レトさんのすぐそばで、
それでも何もできずに立ち尽くす。
届かないと分かっていても、
何度も、何度も願う。
思い出してくれなくてもいい。
俺のことを忘れたままでもいい。
ただ――
もう一度、
自分の「好き」を、取り戻してほしい。
あの人が、あの人らしく、笑える場所へ。
今日は、レトさんの誕生日だ。
なのに――
レトさんは一人、夜の繁華街をふらふらと歩いていた。
ネオンの光に照らされながら、行き先も決めず、ただ人波に紛れて。
理由は、分かっている。
分かりすぎるほど、分かっている。
あの男だ。
レトさんのことを恋人だなんて呼んでいる、あのクソ男。
誕生日を、忘れやがった。
特別な日なのに。
レトさんが生まれた大切な日なのに。
何ひとつ、分かっていない。
レトさんは、ひとりぼっちだ。
その背中を見た瞬間、胸が締めつけられた。
小さくて、心細くて、今にも消えてしまいそうで。
――どうしても。
どうしても、祝いたかった。
一瞬でもいい。
たとえ、すぐに忘れられてしまってもいい。
今日だけでいい。
誕生日の、この一日だけでいい。
そばにいたい。
声を、届けたい。
届かないと分かっている。
何度も呼んで、何度も無視されてきた。
それでも――
今日は、どうしても諦めきれなかった。
俺は、レトさんの背中に近づく。
声だけが、すべてだった。
諦め半分で、
それでも祈るように、息を吸う。
そして――
『こんばんは』
静かな夜に、
その一言を、投げかけた。
続く