テラーノベル
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10話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
レトルトは、全部思い出した。
大好きだったキヨのこと。
名前を呼ぶ声、笑い方、少し強引で不器用な優しさ。
手を繋いだときの体温も、隣を歩く安心感も――すべて。
大切だった思い出たちが、
堰を切ったように胸の奥へ流れ込んでくる。
誕生日になるたび、必ずくれたスターチスの花束。
少し照れながら教えてくれた花言葉。
『“変わらぬ心”とか、“永遠の愛”って意味なんだ』
笑いながら、当たり前の未来を約束した。
疑いもしなかった。
失う日が来るなんて、考えもしなかった。
幸せな記憶が、止まることなく頭になだれ込む。
笑って、喧嘩して、仲直りして。
どうでもいい会話で夜を越して、
並んで歩くだけで満たされていた日々。
――そして。
最後の記憶。
世界が赤く染まって、そして黒く沈んだ記憶。
キヨくんは、車に轢かれて死んだ。
「……っ」
喉が震え、声にならない息が漏れる。
胸の奥が、ぎゅっと潰れるように痛む。
なんで忘れてたんだろう。
忘れなきゃ、生きていけなかったのかもしれない。
それでも――
忘れていい人じゃ、なかった。
「キヨくん……」
震える指で、胸元を押さえる。
そこに残っていたのは、
ずっと消えなかった“喪失”と、
確かに存在した“愛”だった。
とめどなく溢れる涙を、レトルトは何度も何度も拭った。
拭っても、拭っても、追いつかない。
――キヨは、死んだ。
それは紛れもない現実だ。
なのに、なぜ。
昨日の夜、確かに目の前にいた。
あの声も、あの温もりも、幻ではない。
理由は分からない。
分からないけれど、ひとつだけはっきりしていることがある。
もう一度、会いたい。
伝えなきゃいけない言葉が、胸の中に溢れていた。
伝えないままでは、きっと壊れてしまう。
レトルトは、震える手で最後に涙を拭うと、
衝動のままベッドを離れた。
靴を掴み、扉を開く。
冷たい空気が頬を刺す。
それでも足は止まらなかった。
レトルトは、ホテルを飛び出した。
もう一度、愛する人に会うために。
レトルトは、町中を走った。
息が切れても、脚が痛んでも、止まれなかった。
二人で行った場所を、ひとつずつ辿るように。
笑った道。
手を繋いで歩いた角。
何気ない会話を交わしたコンビニの前。
行きたくなかったキヨを失った場所。
思い出すのが怖かった。
それでも、震える身体を無理やり動かして、事故現場にも足を運んだ。
まだそこに、血の色が残っている気がして、視界が滲む。
――ごめん。俺のせいで。
胸の奥で何度も呟く。
気づけば、空は少しずつ茜色に染まり、夕方になっていた。
そして、不意に思い出す。
毎年、誕生日の日になると必ず一緒に行った場所。
小高い山の上にある、小さな公園。
街を一望できる、静かな場所。
あの公園で、いつもキヨから花束を受け取っていた。
照れながら笑うキヨの顔が大好きだった。
そして、毎年、同じ言葉を交わした。
――ずっと一緒にいようね。
スターチスの花言葉の通り、
永遠を誓った場所。
レトルトの胸が、きゅっと締めつけられる。
あそこだ。
キヨくんに、もう一度会えるとしたら――きっと、あそこしかない。
レトルトが公園に着く頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
街の灯りが遠く瞬き、夜風が木々を揺らしている。
公園の奥、いつものベンチに――
ひとり、座っている人影があった。
その周りだけ、ぼわりと淡く光っている。
月明かりでも、街灯でもない、不思議な光。
レトルトは、すぐに分かった。
何度も見てきた、何度も抱きしめた背中。
好きな人の後ろ姿を、見間違うはずがない。
胸が痛いほど高鳴る。
足が震える。
それでも一歩、また一歩と近づいていく。
そして、静かに、震える声で呼びかけた。
「……キヨくん」
その名前を呼んだ瞬間、
夜の空気が、ふっと揺れた。
続く
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