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スタートヽ(*^ω^*)ノ
レトルトは、全部思い出した。
大好きだったキヨのこと。
名前を呼ぶ声、笑い方、少し強引で不器用な優しさ。
手を繋いだときの体温も、隣を歩く安心感も――すべて。
大切だった思い出たちが、
堰を切ったように胸の奥へ流れ込んでくる。
誕生日になるたび、必ずくれたスターチスの花束。
少し照れながら教えてくれた花言葉。
『“変わらぬ心”とか、“永遠の愛”って意味なんだ』
笑いながら、当たり前の未来を約束した。
疑いもしなかった。
失う日が来るなんて、考えもしなかった。
幸せな記憶が、止まることなく頭になだれ込む。
笑って、喧嘩して、仲直りして。
どうでもいい会話で夜を越して、
並んで歩くだけで満たされていた日々。
――そして。
最後の記憶。
世界が赤く染まって、そして黒く沈んだ記憶。
キヨくんは、車に轢かれて死んだ。
「……っ」
喉が震え、声にならない息が漏れる。
胸の奥が、ぎゅっと潰れるように痛む。
なんで忘れてたんだろう。
忘れなきゃ、生きていけなかったのかもしれない。
それでも――
忘れていい人じゃ、なかった。
「キヨくん……」
震える指で、胸元を押さえる。
そこに残っていたのは、
ずっと消えなかった“喪失”と、
確かに存在した“愛”だった。
とめどなく溢れる涙を、レトルトは何度も何度も拭った。
拭っても、拭っても、追いつかない。
――キヨは、死んだ。
それは紛れもない現実だ。
なのに、なぜ。
昨日の夜、確かに目の前にいた。
あの声も、あの温もりも、幻ではない。
理由は分からない。
分からないけれど、ひとつだけはっきりしていることがある。
もう一度、会いたい。
伝えなきゃいけない言葉が、胸の中に溢れていた。
伝えないままでは、きっと壊れてしまう。
レトルトは、震える手で最後に涙を拭うと、
衝動のままベッドを離れた。
靴を掴み、扉を開く。
冷たい空気が頬を刺す。
それでも足は止まらなかった。
レトルトは、ホテルを飛び出した。
もう一度、愛する人に会うために。
レトルトは、町中を走った。
息が切れても、脚が痛んでも、止まれなかった。
二人で行った場所を、ひとつずつ辿るように。
33
魑魅魍魎
2,390
ねこかに
476
笑った道。
手を繋いで歩いた角。
何気ない会話を交わしたコンビニの前。
行きたくなかったキヨを失った場所。
思い出すのが怖かった。
それでも、震える身体を無理やり動かして、事故現場にも足を運んだ。
まだそこに、血の色が残っている気がして、視界が滲む。
――ごめん。俺のせいで。
胸の奥で何度も呟く。
気づけば、空は少しずつ茜色に染まり、夕方になっていた。
そして、不意に思い出す。
毎年、誕生日の日になると必ず一緒に行った場所。
小高い山の上にある、小さな公園。
街を一望できる、静かな場所。
あの公園で、いつもキヨから花束を受け取っていた。
照れながら笑うキヨの顔が大好きだった。
そして、毎年、同じ言葉を交わした。
――ずっと一緒にいようね。
スターチスの花言葉の通り、
永遠を誓った場所。
レトルトの胸が、きゅっと締めつけられる。
あそこだ。
キヨくんに、もう一度会えるとしたら――きっと、あそこしかない。
レトルトが公園に着く頃には、あたりはすっかり暗くなっていた。
街の灯りが遠く瞬き、夜風が木々を揺らしている。
公園の奥、いつものベンチに――
ひとり、座っている人影があった。
その周りだけ、ぼわりと淡く光っている。
月明かりでも、街灯でもない、不思議な光。
レトルトは、すぐに分かった。
何度も見てきた、何度も抱きしめた背中。
好きな人の後ろ姿を、見間違うはずがない。
胸が痛いほど高鳴る。
足が震える。
それでも一歩、また一歩と近づいていく。
そして、静かに、震える声で呼びかけた。
「……キヨくん」
その名前を呼んだ瞬間、
夜の空気が、ふっと揺れた。
続く